金子サトシのカネミ油症ドキュメンタリー『食卓の肖像』東京上映会のお知らせ(2月19日(日)14:00〜、3月24日(土)18:00〜・「かふぇ&ほーる with遊」(荻窪駅南口徒歩8分))


金子サトシの『食卓の肖像』が、キネマ旬報文化映画ベストテンの第10位に選ばれたことを記念して上映会が開かれるそうです。


『食卓の肖像』 (DV作品、103分)
取材・構成:金子サトシ
撮影:内野敏郎 金子サトシ 福本淳
スーパーバイザー:土屋豊 OurPlanet-TV


1968年に発覚した戦後最大の食品公害、カネミ油症。40年以上たった現在もその影響
下に生きる被害者の人たちを見つめたドキュメンタリー。結婚、出産など、それぞれ
の人生から今も続く被害の実態が浮かび上がってくる。


上映日時
2月19日(日) 午後2時上映開始

3月24日(土) 午後6時上映開始


上映会場
「かふぇ&ほーる with遊」(荻窪駅南口徒歩8分)
(いずれの日も、定員30名、予約制)
* 定員30名の会場のため、事前にご予約ください。
人数が30名に達しなかった場合は当日、先着順で入れます。


会場へのアクセスは以下をご参照ください。
http://cafewithyou.web.fc2.com/map.html


「かふぇ&ほーる with遊」 杉並区荻窪3-46-13(TEL.03-6661-2336)
JR荻窪駅南口を出て左にまっすぐ行くと 青梅街道にぶつかります。そのまま直進
し、「すき家」 の先、歩道橋の手前が 『with遊』 です。(駅から徒歩8分)
阿佐ヶ谷駅よりバスをご利用の場合は、荻窪方面バス停 「天沼」 停留所前です。


料金:一般1000円  学生・子ども500円


問い合わせ
金子サトシ  
携帯090-1793-6627
メール n3946062 @ yacht.ocn.ne.jp


監督コメント『食卓の肖像』制作について(金子サトシ)
 http://d.hatena.ne.jp/inazuma2006/20110306/p2


金子サトシ『食卓の肖像』について(井川耕一郎)
 http://d.hatena.ne.jp/inazuma2006/20120204/p2

金子サトシ『食卓の肖像』について(井川耕一郎)


(以下の文章は、『映画芸術』2011年冬号(第434号)からの再録です)


金子サトシ『食卓の肖像』10点


 去年はずっと前から見たかった深尾道典の『女医の愛欲日記』とロバート・アルトマンの『バード・シット』が見られた年だった(どちらも素晴らしい作品だった)。しかし、新作の中から一本を選べと言われたら、金子サトシの『食卓の肖像』になるだろうか。
 カネミ油症の被害者にインタビューした作品である。主な症状が皮膚の上にあらわれるのがカネミ油症だという勝手な思いこみにとらわれていただけに、トイレで死産し、ライターの火であぶった刃物でへその緒を切ったという重本加名代さんの話や、口唇口蓋裂の障害児を出産した中内郁子さんの話は衝撃的だった。製作意図としては、カネミ油症の問題を風化させまいということなのだろう。けれども、映画を見ていて感じるのは、世の中に訴えるという狙いとは別の不思議な清明さなのだ。一体、これは何なのだろう。
 おそらく、この清明さは質問を聞くときの被害者のひとたちのまなざしから来ているのではないだろうか。監督の金子サトシはお世辞にもインタビュアーとして上手いとは言えない。画面外から聞こえる声は小さく今にも消え入りそうだし、何度もつっかえてしまう。しかし、被害者のひとたちがまっすぐに見つめているのは、言葉を一生懸命探している金子サトシの誠実さだけなのだ。誠実さには誠実さでもって応えようということだろうか。
 映画の半ばあたりで話題になるのは矢野トヨコさんという被害者だ。カネミ倉庫や国の責任を追及してきたひと、カネミ油症の診断基準に疑問を持ち、未認定の被害者の掘り起こし活動に尽力してきたひとである。未認定の高山美子さんは矢野さんとの出会いをカメラの前で静かに語る――自分の体が将来どうなってしまうのかと不安になっているわたしを矢野さんは母親のようにあたたかく受け入れてくれた。そして、写真が趣味のわたしに「自分のヌードを撮ってほしい。あなただからこそ頼むのだ」と言ってくれた……。
 高山美子さんの話に続けて画面に映る写真は、一瞬目を背けたくなるようなものだ。左乳房が切除され、胸からへそあたりまで太い一本の手術痕が走っている(だが、高山さんが撮った風景写真に通じる透きとおった美しさがあるのが不思議だ)。そして、夫の矢野忠義さんが亡き妻について次のように語るのである。カネミ油症問題の奥の深さに誰よりも先に気づいたのは妻だった。矢野トヨコは私の先輩であり、先生であった、と。ここまで見て私たちは気づくことになる。カネミ油症被害者の人生とは、何ものにも惑わされることなく、物事をまっすぐに見つめることを求める人生であったのだ。つまり、質問する金子サトシに向けられたまなざしは長い苦闘の中で獲得されたものだったのである。
 映画の後半では、カネミ油症の問題から離れて、被害者のひとたちの現在が映しだされる。中内郁子さんは自宅の庭で野菜をつくり、重本加名代さんは無農薬の米作りや無添加のケーキ作りに取り組んでいる。要するに、それぞれが環境と健康に配慮した活動を行っているということを示したかったのだろうか。いや、そうならば、口唇口蓋裂の障害者として生まれた中内孝一さんが趣味で空港から飛び立つ飛行機の写真を撮っている場面は不要のはずだ。たぶん、金子サトシが示したかったのは、金子自身が被害者のひとたちから新たな目でこの世界を見つめなおすことを学ぶ過程だったのではないだろうか。
 中内郁子さんとともにピーマンやモロヘイヤを見つめること、重本加名代さんとともに田植え体験にやってきた子どもたちを見つめること、中内孝一さんとともに飛行機を見つめること。癌から奇跡的に生還した真柄繁夫さんは移り住んだ村の川辺に立って、ここでは鮎がようけ獲れるし、蟹も獲れる、と語る。私たちは真柄さんにうながされるようにして川や山に目を向け、こう思わずにはいられない――どうしようもなく悲惨なことはたしかに存在する。だがそれでも、この世界はまだ生きるに値するのかもしれない、と。(上映などの問合せ先は金子サトシ n3946062@yacht.ocn.ne.jp)
 映画に関する本で去年一番の収穫は、中矢名男人、小嶋健作、飯田佳秀らの同人誌『シナリオを読もうぜ!』の第一号「総特集 生誕百年・井手俊郎を読む」だろう。「関係」「錯視」「視差」「幽霊」といった用語を活用した十本のシナリオ分析がどれもスリリングだ。鈴木英夫の『旅愁の都』など、それほど面白いとは思えなかったが、もう一度見直してみようと思わせる力がこの本にはある。そのうえ、『洲崎パラダイス 赤信号』、『妻の心』のシナリオやエッセイまで収録されているのだ。これだけ充実した内容なのに、五百円とは! 実に素晴らしい本である(問い合わせ先はシナモンズ cinephobia@scenamons.com)。



金子サトシ『食卓の肖像』上映会が、「かふぇ&ほーる with遊」(荻窪駅南口徒歩8分)で2月19日(日)と3月24日(土)にあります。
詳しくは以下のブログをご覧ください。
金子サトシのブログ『地球が回ればフィルムも回る』
http://blue.ap.teacup.com/documentary/1660.html