井川耕一郎

『つわものどもが遊びのあと 渡辺護が語るピンク映画史』、ラピュタ阿佐ヶ谷で上映中(9月19日まで連日21時〜)

(この文章は『月刊シナリオ』2016年9月号に掲載されたものです) 「渡辺さん、さっき言ってましたね。『(秘)湯の街 夜のひとで』を撮っているとき、いつか映画が撮れなくなる日が来る……と思っていたって。売り出し中のこれからって監督が何でそんなこと…

渡辺護1931−2013(後)(井川耕一郎)

<緊縛ものと新人女優:1977−1984> 1970年代半ば、新東宝興業は小森白『日本拷問刑罰史』(64)のようなヒット作を求め、若松孝二、山本晋也らに拷問ものを発注していた。同じ注文は渡辺のところにも来たが、拷問ものが生理的に苦手な渡辺は廓の女たちの悲…

渡辺護1931−2013(前)(井川耕一郎)

1931年3月19日東京生まれ。1950年、早稲田大学文学部演劇科に入学。その後、八田元夫演出研究所に入り、演出を学ぶ。テレビドラマの俳優、シナリオライター、教育映画・テレビ映画の助監督などを経て、1964年、ピンク映画界へ。1965年に『あばずれ』で監督…

「渡辺護自伝的ドキュメンタリー(全10部)」第7部〜第10部について(井川耕一郎)

(渡辺護が助監督としてついた南部泰三『殺された女』(64)の現場の写真) 第7部『渡辺護が語る自作解説 緊縛ものを撮る(三) 権力者の肖像』(30分) 第7部で主に話題となる作品は日野繭子主演の『聖処女縛り』(79)。渡辺護によれば、『谷ナオミ 縛る…

「渡辺護自伝的ドキュメンタリー(全10部)」第3部〜第6部について(井川耕一郎)

(以下の文章は2013年10月8日の試写のときに配布したものです) 「渡辺護自伝的ドキュメンタリー(全10部)」の第3部〜第6部は自作解説篇になる。 自作解説篇は渡辺護監督作品とのセット上映を前提としている(たとえば、『おんな地獄唄 尺八弁天』(70)…

渡辺護監督が亡くなりました/その監督人生をふりかえる(井川耕一郎)

(以下の文章は、2014年1月2日に渡辺護公式サイトに掲載したものです) 2013年12月24日、渡辺護監督が82才で亡くなりました。 10月に新作を撮る話が来て、周囲の人々に「面白い映画を撮ってみせるよ!」と宣言していたのですが、11月2日に外出先で倒れ、…

渡辺あい『電撃』と冨永圭祐『乱心』についての往復書簡・第3回(清水かえで+井川耕一郎)

<井川耕一郎→清水かえで:『電撃』の病気、『乱心』の病気・その2> 次に『乱心』について。 清水さんは、シーン13で盛太が遠くに放り投げたボールが、シーン14でひよりをあたりそうになるところについて尋ねてましたね。 試写で見たときには、思わず笑っ…

渡辺あい『電撃』と冨永圭祐『乱心』についての往復書簡・第2回(清水かえで+井川耕一郎)

<清水かえで→井川耕一郎:『乱心』のシナリオを読んで> 『乱心』のシナリオ、送っていただき、ありがとうございます。 面白かったです。 どんな役者さんがどんなふうに演じているんだろう、どんなところで撮影しているんだろうって、 冨永さんの映画が見た…

渡辺あい『電撃』と冨永圭祐『乱心』についての往復書簡・第1回(清水かえで+井川耕一郎)

(この往復書簡は、2011年にプロジェクトDENGEKIブログのために書いたものです) <はじめに> 試写で渡辺あいさんの『電撃』を見たら面白かった。それで、大工原正樹さんに、『電撃』の感想をブログに書きますよ、と言ったのだが、あとになって、し…

西尾孔志『ソウル・フラワー・トレイン』について(井川耕一郎)

以下の文章は、8月22日にツイッターに書いたものです。 (井川)西尾孔志『ソウル・フラワー・トレイン』を試写で見ながら思ったことは、大阪はよそ者にも親しげに話しかけてくる町なのだなということ。そして、隙あらば、ひとの持ち物をくすねようとする町…

渡辺護『少女を縛る!』について1・2(井川耕一郎)

1 『少女を縛る!』(78)というタイトルを聞いて思い出すのは、『谷ナオミ 縛る!』(77)だ。 当然、これから映画を見ようとする者の関心は、少女を演じる女優に向けられるだろう。 しかし、映画が始まってすぐに映る少女役を見て、たいていのひとは、え…

金子サトシ『食卓の肖像』を再見して(井川耕一郎)

(以下の感想は、2013年4月4日にツイッター(https://twitter.com/wmd1931)に書いたものです) 金子サトシ『食卓の肖像』を再見。映画が始まって30分くらいたったところで、五島列島のとある集会所で行われた市民団体による自主検診が映る。検診の後はビ…

旦雄二『助監督』について(井川耕一郎)

(以下の文章は、ツイッター(https://twitter.com/wmd1931)に書いたものの再録です) 1 (2013年2月19日) 第11回城戸賞入選作・旦雄二(@yujidan)『助監督』(「キネマ旬報」1986年1月下旬号)を読む。旦さんがピンク映画の助監督だった頃を題材にして…

粟津慶子『収穫』について(井川耕一郎)

(以下の文章は『映画芸術』2010年冬号(430号)に載ったものです) 2010年BEST 粟津慶子『収穫』、小出豊『こんなに暗い夜』(各10点) 粟津慶子『収穫』について。怪作である。映画が始まってすぐ、教室で腕組みして居眠りする女教師が映るのだが、その姿…

『男ごろし 極悪弁天』から『おんな地獄唄 尺八弁天』へ(4)(井川耕一郎)

だらだら書いてきたこの覚え書きもそろそろ終わらせようと思う。 そこで最後の回は、渡辺護さんが撮影で使用したシナリオを手がかりに、『尺八弁天』の創作の現場にちょっとでも近づいてみたいと思う。 私たちは映画の面白さについて書くときに、ある一人の…

『男ごろし 極悪弁天』から『おんな地獄唄 尺八弁天』へ(3)(井川耕一郎)

殺意と表裏一体の愛欲について。 これは、『極悪弁天』では英二郎がになっていた。 英二郎に抱かれた加代が「苦しい……死ぬかと思った……」と言うと、彼はこう答える。「俺は人斬り英二郎と云われた男だ……あんたを殺る時は……ドスであの世に送ってやる」 『尺八…

『男ごろし 極悪弁天』から『おんな地獄唄 尺八弁天』へ(2)(井川耕一郎)

渡辺護さんの話では、観客の反応を見ようと、『極悪弁天』を上映する映画館に行ったところ、向井寛と、当時、助監督だった稲尾実(深町章)がいたという。 向井寛は映画の出来に感心したらしい。稲尾実も『極悪弁天』に感動し(劇場内で拍手した)、その後、…

『男ごろし 極悪弁天』から『おんな地獄唄 尺八弁天』へ(1)(井川耕一郎)

神戸映画資料館で『おんな地獄唄 尺八弁天』(70)が上映されるとのこと(2月10日16:05〜、11日15:50〜)。 ちょうどいい機会だから、ドキュメンタリー制作の過程で『尺八弁天』について分かったことを書いておこうと思う。 『おんな地獄唄 尺八弁天』に…

渡辺護『紅壺』について(井川耕一郎)

(以下の文章は、mixiに書いた「渡辺護自伝的ドキュメンタリー制作日記」からの転載です(2012年09月14日)) 『紅壷』(65)は渡辺護の監督第二作で、現在残っている作品の中では一番古いものである(フィルムはぴんくりんくの太田さんが所有)。 渡辺さん…

渡辺護、向井寛の初期作品について語る

(以下の文章は、mixiの「渡辺護自伝的ドキュメンタリー制作日記」からの転載です(2012年8月3日)) 現在、第二部『つわものどもが遊びのあと ―渡辺護が語るピンク映画史―』の編集中なのだけれども、 カットしたインタビュー部分をこの製作日記に載せてお…

向井寛『肉』について(井川耕一郎)

(以下の文章は、mixiの「渡辺護自伝的ドキュメンタリー制作日記」からの転載です(2012年08月20日)) 8月17日(金)に銀座シネパトスで、向井寛の監督デビュー作『肉』(65)を見たので、そのことについて記しておこう。 一度見ただけだから、批評にはな…

『つわものどもが遊びのあと 渡辺護が語るピンク映画史』について(井川耕一郎)

『つわものどもが遊びのあと 渡辺護が語るピンク映画史』 (2012年・138分)出演・語り:渡辺護 製作:渡辺護、北岡稔美 撮影:松本岳大、井川耕一郎 録音;光地拓郎 編集:北岡稔美 構成補:矢部真弓、高橋淳 構成:井川耕一郎 協力:渡辺典子、新東宝映画…

『糸の切れた凧 渡辺護が語る渡辺護』について(井川耕一郎)

『糸の切れた凧 渡辺護が語る渡辺護』 (2011年・122分)出演・語り:渡辺護 製作:渡辺護、北岡稔美 撮影:松本岳大、井川耕一郎 録音;光地拓郎 編集:北岡稔美 構成補:矢部真弓、高橋淳 構成:井川耕一郎 協力:渡辺典子、太田耕耘キ(ぴんくりんく編集…

『糸の切れた凧 渡辺護が語る渡辺護』、『つわものどもが遊びのあと 渡辺護が語るピンク映画史』上映(12月22日(土)18:00〜・映画美学校試写室)

渡辺護自伝的ドキュメンタリープロジェクト(全10部・8時間の予定)の第一部と第二部が、映画美学校映画祭の前夜祭で上映されます(12月22日(土)18時から・映画美学校試写室)。 12月22日(土) 18:00〜 第一部『糸の切れた凧 渡辺護が語る渡辺護』(2011…

小出豊くんのこと(井川耕一郎)

(以下の文章は、「CO2映画上映展 第5回 フィルム・エキシビション in OSAKA」のパンフレットに掲載されたものです) 四年前、シネマアートン下北沢という映画館が大和屋竺特集を企画したときのこと。大和屋に関する小冊子の作成を依頼された私は、若い人た…

映芸シネマテークvol.12で大工原正樹『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』、井川耕一郎『西みがき』などを上映(3月9日(金)19時〜・人形町三日月座B1F/Base KOM)

「映画芸術」、「coffee & pictures人形町三日月座」主催の映芸シネマテークで、大工原正樹『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』、井川耕一郎『西みがき』『玄関の女』が上映されます。 「映芸シネマテーク」vol.12(3月9日(金))のお知らせ 大工原正樹…

金子サトシ『食卓の肖像』について(井川耕一郎)

(以下の文章は、『映画芸術』2011年冬号(第434号)からの再録です) 金子サトシ『食卓の肖像』10点 去年はずっと前から見たかった深尾道典の『女医の愛欲日記』とロバート・アルトマンの『バード・シット』が見られた年だった(どちらも素晴らしい作品だっ…

筒井武文『孤独な惑星』について(井川耕一郎)

『孤独な惑星』を見たあと、まず思うのは真理を演じた竹厚綾の魅力は背の高さだな、ということです。おそらく、監督の筒井武文が彼女を主演に選んだ一番の理由もそうだったのではないでしょうか。 「まだおれのことが好きなんじゃないの?」と真理に言い寄っ…

『赤猫』をふりかえって(井川耕一郎)

大工原正樹の『赤猫』は、『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』の併映作品として、10月4日(火)に上映されます(オーディトリウム渋谷、21時10分〜)。 (『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』について書いたときと同じように、とりとめない雑感になって…

『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』を見て思ったこと・第3回(井川耕一郎)

今年の三月にアテネフランセ文化センターで大工原正樹特集があったとき、チラシには次のような『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』の紹介が載った。 子供の頃に義父から受けた虐待の記憶に苛まれる姉弟が、母の死を機に故郷の港町を久方振りに訪れる。彼ら…