シネマアートン下北沢で6月にレイトショー

プロジェクトINAZUMAの4作品、『INAZUMA 稲妻』(西山洋市)、『赤猫』(大工原正樹)、『みつかるまで』(常本琢招)、『寝耳に水』(井川耕一郎)の東京上映が決定しました。
シネマアートン下北沢で、6月2日(土)から15日(金)までレイトショー公開されます。
2作品ずつの公開となりますが、詳細は追って発表します。

『INAZUMA 稲妻』
(2005年・30分)

監督:西山洋市、脚本:片桐絵梨子、撮影:芦澤明子
出演:松蔭浩之、宮田亜紀、西山朱子、布川恵太

<あらすじ>
 女優のセリ(宮田亜紀)は撮影中に相手役の加島(松蔭浩之)が振るった真剣で顔を傷つけられた。セリは加島を怨んだが、その後も加島との撮影は続けられ、セリは怨みを芝居で加島に向けた。だがセリは密かに加島への仕返しを狙っていた。
 ある日、撮影を終えた直後の加島にセリが果し合いを挑んだ。加島は刀を抜こうとしない。セリが切りかかる。顔を切られた加島が抜いた刀は竹光だった。セリは拍子抜けして腹を立てる。セリは加島と真剣に渡り合いたいと願っていたのだ。それを知った加島とセリの関係が奇妙な方向にねじれ始める。劇の中で憎みあい傷つけあう関係にあったふたりが、実際に真剣で傷つけあいを始めたのだ。ふたりの傷つけあいは劇なのか本当なのか分からなくなっていく。憎しみは隠微な喜びに変わっていた。
 ふたりの倒錯した関係はやがて加島の妻(西山朱子)に察知され、嫉妬に狂った妻がふたりの関係に割って入り、一方、実生活でセリの弟分のような消防士の若者(布川恵太)もセリと加島の関係に業を煮やして加島に罠を仕掛けたことから、事態は思わぬほうへ転がり始める。

<作品解説>
 「現代劇に、アクション物とは違うコンセプトで『チャンバラ』を導入しようと思った」(西山洋市)。冒頭、問答無用で始まる無国籍時代劇――それは主人公たちが出演するTV映画だった。しかし、撮影現場以外での彼らの生き様と映画内での演技の間に、質の違いはまったくない。彼らは常に戦士として苛烈な人生を送っているのだ。


『赤猫』
(2004年・42分)

監督:大工原正樹、脚本:井川耕一郎、撮影:福沢正典
出演:森田亜紀、李鐘浩、藤崎ルキノ、永井正子

<あらすじ> 
 私(李鐘浩)の出張中、妻の千里(森田亜紀)が流産した。風呂の電球を替えようとして、椅子から転落して流産したのだ。
 退院後の千里は何もしゃべらず、マンションのベランダからただ遠くを見つめているだけだった。
 だが、ある夜、ふとしたことをきっかけに、千里は流産に至る経緯を私に話しだした。
 近頃、町で頻発している連続放火事件……。
 偶然に聞いた夫が浮気しているという根拠のない噂……。
 いるはずのない猫の気配を感じ取り、ネコアレルギーの症状が出たこと……。
 夫が学生時代に買った本の中から出てきた一枚の古い写真に写っている女性……。
 日常生活で些細な疑念や異変が積み重なっていく中、ある日、千里は放火犯を意味する「赤猫」という隠語を耳にする。
 そして、そこから千里の話はとうてい信じられないような方向へと展開してゆく……。

<作品解説>
 夫は風呂の水につかった電球を引き上げると、タオルでそっとぬぐう。まるで失われた我が子の命を悼むかのように。だが、その後、妻が淡々と語る流産に至る経緯を聞き、慄然とする……。夫の目の前で妻が未知の他者に変貌するサスペンス。「森谷司郎監督『放課後』に登場する地井武男宮本信子の夫婦が高層団地に住んでいたら、という井川耕一郎との雑談から始まった映画だったのだが……」(大工原正樹)。


『みつかるまで』
(2002年・46分)

監督・脚本:常本琢招、脚本:藤田一朗、撮影:志賀葉一
出演:板谷由夏水橋研二、奈良坂篤、諏訪太朗

<あらすじ>
絵が描けなくなった画家、毛利芳美(板谷由夏)は、電車で居眠りしている乗客のカバンを盗み、財布を抜き出すことで生きていた。
そんな芳美の前に、得体の知れない男、小高哲史(水橋研二)が現れ、芳美に付きまとう。
最初は疎ましがっていた芳美だが、「俺の見たいあんたは、今のあんたじゃないみたいなんだよね……」という言葉をきっかけに、次第に心を開き始めた。
しかし、小高が芳美にとってかけがえのない存在になったとき、彼の意外な正体が判明。警察に追われる身となった2人の逃避行が始まる。そして芳美にとって、ある決断を下さなくてはならないときが、すぐ近くにやってきていた……。

<作品解説>
 水橋研二は気弱な笑みを浮かべ、女の肩にもたれかかり目を閉じる。板谷由夏は挑戦的な視線を世界に向けてまっすぐ投げかける。男らしさ・女らしさから脱した演技を通して、新たな愛の形を探る作品。「1970年代前半に作られた東宝青春映画の、脆弱ではあるが繊細な作品世界。いまは受け継ぐ者がいなくなったその世界の再現を狙った」(常本琢招)。


『寝耳に水』
(00年・32分)

監督・脚本:井川耕一郎、撮影:大城宏之、アニメーション:新谷尚之
出演:長曽我部蓉子、山之内菜穂子、山粼和如、清水健

<あらすじ>
 真夜中、ぽたり、ぽたり、と水の滴り落ちる音がどこからか聞こえてきて、それが主人公、坂口の記憶を呼び覚ます。
 三年前の夜、坂口を家をふらりと訪れた長島。大学の後輩であった彼は坂口に、近頃くりかえし見る奇妙な夢の話をする。その夢は、長島の恋人で、交通事故で亡くなった弘美にまつわるものであった。
 残り火のように長島の心の中でいまだ燃えている弘美への思い。夜ごと、水を滴らせながら長島の枕もとに立つ弘美の幽霊。やがて、頭の中で激しく燃えだした火に長島は苦しみだす。すると、ある夜、その火を鎮めに来たのか、弘美の幽霊の口から長島の耳へと一すじの水が注ぎこまれた……。
 一体、長島はどういうつもりでこんな話をするのだ? 坂口はとまどいつつも、その夢の話に魅了されていく――。

<作品解説>
「寝耳に水を文字通り実行したらどうなるか? そのときに感じるであろう不安と恍惚を青春怪談映画として描いてみた」(井川耕一郎)。「寝耳に水」は江戸川乱歩『屋根裏の散歩者』にヒントを得たしかけで撮影された。ちなみに、映画評論家・阿部嘉昭は乱歩の『蟲』との共通点を指摘。戦前から脈々と続く日本的なエログロを追求した作品。