自作解説『健康師ダン』(常本琢招)

どうも、常本です。好きなブロガーは雨宮まみ
この自作解説シリーズ、書いている自作が今では観れないピンク映画&レンタルにほとんど置いてないVオリなので、ホントに興味あるの?読んでいる人いるの?と暗闇に石を投げているような気持ちでした。しかし、女優の中原翔子さんから「愛読している」と暖かい言葉をいただいて、急にやる気が出ました。現金なものです。
それに!5月末、旧作の上映会をやってもらえることにもなったので、興味がある方はそちらも4649!!
では、第3弾も張り切って参りまショー!


今回は、1997年末に撮影、1998年に発売された『健康師ダン』、僕自身も非常に気に入っているこの作品について語らせていただきます。


これは、当時製作・販売会社のKSSに在社していた林由恵プロデューサーから依頼された仕事でした。林プロデューサーのデビュー作となる『いたずらロリータ』というVオリを僕が手がけたご縁で、この作品につながったのだと思います。


『健康師ダン』は、モーニングに連載されていたマンガの映像化で、一突き十万円ですべての病を癒すスーパー整体師=健康師・団流星が、病気だけではなく不正を働く悪や、さらには女心も治療していく・・・という荒唐無稽なお話です。


この話が来たときは、とにかく嬉しかったのを憶えています。
それまで、僕は主に、女性の心理を見据え、えぐるような作品を、その作品にのめりこむような形で撮ってきました。一方で、カット割り等にテクニックを弄したりギミックを取り入れたりしたい欲望もあるので、「ヒロインをとにかく描きたいという気持ち」と「テク」を拮抗させるような形で作品を成立させることが多いように思います。
しかし、毎回気持ちを入れすぎると疲れてしまうもの。ときには「心なし」の作品、気持ちは関係なくテクニックをとにかく追求し、テーマや思想はそこから炙り出されてくればいい、『ダン』の前は1993年に撮った『テレクラ稼業』がそうでしたが、とにかく観客へのサービスに徹して、こちらが言いたいことは分かる人には分かればいいと開き直った作品が時には作りたくなるのです。
そして、今回の題材ならそれが実現できると思いました。


そんな作品を作るのには、いつも以上に周到なシナリオ作りが要求されます。これを読まれている方も容易に想像できると思いますが、荒唐無稽な内容だと、一歩間違えば子供騙しのチャチなものにしかならなくなるからです。
この作品はまさにヒーローを中心にストーリーが展開する大虚構のオハナシ。しかし単なるヒーロー物というわけではなく、笑いあり、お色気あり、ぶっ飛びすぎてある種のヒーロー物のパロディという趣すらある。
どう取り扱うかの「さじ加減」が非常に難しかったので、脚本を頼めるのは、香川まさひとさんしかいないと思っていました。


香川さんは、『バスクリンナイト』という自主映画の名作で知られる映画作家ですが、僕は『青春』という、わずか数分の短編映画を観たときの衝撃と笑いを忘れることが出来ません。発想のすごさ、独特なユーモア感覚に、この人にはかなわないという感じをそれからずっと持っていまして、脚本家としても活躍し出した香川さんに、一度ぜひお願いしたいと思っていたのです。
幸い快諾してくれましたが、打ち合わせで会った香川さんは、独特の人柄でしたね。
別にコワモテというわけではないんですが、面と向かうと、どことなく「怖さ」を感じさせるオーラが伝わってくるんです。
さらに、書くに当たっても、やりたいこととやりたくないことがとにかくハッキリしており、井川耕一郎さんも然りですが、きちんとしたものを書く人の態度は、やはりこんな風に妥協がないのだなあ、と感じ入ったことを憶えています。
出来上がった脚本は、もちろん充分満足出来るもの。当時、なぜか脚本を手に入れ読んだ鎮西尚一監督から電話があって、「この脚本は素晴らしい。これで出来が悪かったら、君の責任だ」といわれ、嬉しい思いをしました。
香川さんとはそれから、犯罪映画のプロットを一本作っただけ。その後、活動の軸足をマンガ原作に移し、映画の脚本はあまり手掛けられていないのが、残念でなりません。


そして、テクで勝負する作品には、心強いカメラマンが必要になってきます。迷わず、志賀葉一さんに声をかけました。
ぼくは、17年も監督をやっているのに、カメラマンは志賀さんと福沢正典さんの二人しか知りません。二穴主義!!(浮気中のテレビでは、無数のカメラマンと仕事をしていますが・・・)
僕自身が、スタッフに関しては慣れた人と組むのを好むからだと思います。そのくせ、主役級のキャストは始めての人と組みたがるのだから、不思議なものです。
そして、どちらかというと、テクニックを弄する作品は志賀さん、心情を重視する作品は福沢さん、という頼み分けが、僕の中では出来ていたようです。


福沢さんについては別の回に譲るとして、僕にとっての志賀さんの魅力は、その大胆なフレーミング
たとえば、僕が「ここはツーショットの引きで」と頼むと、決まってといっていいほど、志賀さんは僕が思っていたよりも引いてくるんです。僕が相当引きのサイズを考えてきたときでも、それよりもさらに引いてきます。そして、その画面が実に決まっているというか、かっこいい。風通しの良い画面になっていて、唸らせられるんです。
さらに、志賀さんはアイデアマンで、滝田洋二郎渡辺元嗣監督らのピンク映画での低予算特撮の見事さを記憶されている方も多いでしょうが、僕の作品のときでも、たとえば「吹いてくる“風の見た目”を撮りたい」と無茶なことを言えば、ビデオレンズを長い竿にくくりつけて振り回したり、メインカメラの横に民生機のカメラをサブカメとして置き、それで無造作に撮った映像を、もし面白かったら本編に挿入してみたら?と提案してくれたり・・・作品のクオリティを上げるのに本当に貢献してくれるので、助かります。
もっとも志賀さんがインタビューで語るには・・・

−−常本さんの作品を撮るとき、他の監督とここが違った、というようなことはありますか?
志賀「まあ、常本っちゃんは自分の中に出来上がっているものが、わりとガッチリある方で、コンストラクションがしっかりしている方なんだな。カメラマンってさ、しっかりしてればしっかりしてるほど入り込みづらくてさ。だから、隙間を探すのが結構大変なの(笑)」


(「みつかるまで」パンフレット所載のインタビュー)(注)


と、やりづらいようです。


そして、大切なのがヒーローを演じる主役のキャスティング。これですべてが決まります。
様々な候補が上がりましたが、受けてくれたのが京本政樹。そして、サブに安岡力也・・・
これ、相当悩みましたよ。いままで、経験もそれほどなく、ましてや地位もそんなに高くない役者達と作品を作るのに慣れていた僕が、この二人にどうやって芝居をつければいいのか?不躾なことを言って怒られないか??


けれど、現場に入ればその心配は杞憂に終わりました。お二人とも本当にいい人で、京本さんは撮影中、僕と志賀さんをレストランに呼んで食事会を開いていただき、映画に対する熱い思いをとうとうと述べられましたし(ちなみに、京本さんは僕の『テレクラ稼業』を参考に見たそうです。夜中に一人で『テレクラ稼業』を見る京本政樹・・・)、なんといっても、京本さんが団流星という不思議なキャラを真面目に演じてくれたおかげで、この作品に「格」が生まれたと思っています。
安岡力也さんに至っては、今までこんなにやりやすい役者さんに会ったことがない程。僕の頼みをなんでも聞き入れてもらい、細かい指示にも気さくに対応してくれました。おかげで、この作品では、いつものコワモテではなく、気のいいオジサンを演じる力也さんの、肩の力が抜けたいい芝居が見られると思います。
そういえば撮影中、忘れられないこんなことがありました。


渋谷の裏の細い道で、力也さんと京本さんがタクシーの中にいて、発車するシーンを撮ろうとしていた時のこと。チンピラ風の若い男が、タクシーの前にある自販機に駆け寄り、買うフリをしてそこからどこうとしないのです。撮影と見て嫌がらせをしていたのでしょう。中断が続き、スタッフも苛立ち始めながら、声をかけられずにいたところ、力也さんがタクシーの窓からヌッと顔を出して一声、
「おにいちゃん、まだ買い物、終わらねえのかい??」
人間はこんなに早く走れるのかというほどの物凄いダッシュで逃げていく男。現場は大爆笑に包まれたのでした。


他の役者も、助手役の愛禾みさ、敵対するゴージャス健康師役の生田依子というダブルヒロインが頑張ってくれましたし、志水季里子さんやモロ師岡さんといった、それまでファンだった人たちと仕事が出来たのも嬉しかったです。志水さんが久々にベッドシーンを演じてくれたのも、感激しました。


制作会社は、大好きだった大森一樹監督の映画をずっと手がけていたシネマハウトだったので、オマージュのつもりで場面転換に『ユー・ガッタ・チャンス』と同じギザギザワイプを使ったり、とにかく僕が当時持てる限りのテクニックをすべて投入、それなりに自信も持てる、愛着のある作品に仕上がりました。

内容については、中原翔子さんの友人が書いてくれた、こんな評がありますので、最後にこちらをお読みください。

もう単純に面白くて、面白くて、たまらない作品で、京本政樹が患者を前に、施術名を唱えながら気を溜めると、人体の経絡図がインサートされ、これから行う治療の効果とツボの位置が丁寧に紹介されるわけです。彼が気合いもろともツボを突くと、患者の顔が快楽に歪み、脳内エンドロフィンがドピュッ、というのがお約束。


健康師のワザは患者を治すだけでなく、治療シーンのお色気にも、アクションシーンでは拳法にまで応用されて、全編見せ場だらけ。盤石のヒーローですわ、京本政樹
団の助手になる愛禾みさのコメディエンヌぶりも、とてもかわいらしい。
無口な団流星に代わって、状況や心境をすべて独り言で説明してしまう役割を、軽快に演じています (この人、菅野美穂中谷美紀加藤紀子を排出した桜っ子クラブさくら組の出身みたいで、たいへんな逸材だと思うんだけど、なんで消えてしまったんですかね)。


抜群の人物設定に、気のきいた演出、愛禾みさや安岡力也の助演も光ってる、楽しい作品なんですけど、難をいえば、「それでは解説しよう」的なインサートの手法が、今では使い古されて見えること。劇中の音楽の要素が物足りないこと。そしてなによりも、続きがないこと。


……そう、この作品、あきらかに、シリーズものの第一弾として作られているので、大小の伏線が回収されずに終わってしまうんです。治療シーンもまだまだ描けそうなのに、少ししか登場してないし。
あまり意味がなかったモロ師岡の役も、伏線の一つだったのかもしれません。


<「タラガ」さんのmixi日記より>


その通り、続編の企画はあったのですが、ご多分に漏れず売れ行きが良くなくて、ポシャッたのでした。あまり人に見てもらえなかったのが、悔やまれてならない作品です。


注:志賀葉一と常本琢招の対談「キャメラマンは語る」はこのブログの以下のページに再録しています。
http://d.hatena.ne.jp/inazuma2006/20060524
http://d.hatena.ne.jp/inazuma2006/20060525
http://d.hatena.ne.jp/inazuma2006/20060526