新作『蜘蛛の国の女王』について(常本琢招)

どうも、常本です。好きなモデルは長谷川潤!!

私の新作、『蜘蛛の国の女王』が完成、まずは大阪で上映の運びとなりましたので、この場でご報告させていただきます。
前作『みつかるまで』から7年ぶり。ものすごい時間が経ってしまいました(撮影自体は一昨年でしたが)・・・どうしてこんなことになったのか、まあ、その理由から聞いてください。←人生幸朗風に。


(1)家族を養うため、バイトとしてやっているTVディレクターの仕事に、文字通り忙殺されている。
(2)そんな中、あるプロデューサーと組み、劇場映画の企画を3本進めたが、いずれも実らず、時間が無為に流れた。


こんな現状では、注文映画を撮るのは当分先のことになりそうなので、再び自主映画を撮ることにしたわけです。
今回は、以前よりやりたかった「女同士の心理戦」という枠組みの映画に挑戦してみました。アルドリッチの『ふるえて眠れ』、ロージーの『秘密の儀式』、シャブロルの『女鹿』など、女同士が精神的バトルを繰り広げる一連の映画に魅せられてきた僕は、最近その種の映画が作られないことに不満を感じ、なら自分で造ってみよう、と。
しかし問題は、メインキャラクターに、今まで見なかったような魅力的かつユニークな「悪の女」のキャラクターを造り出したいと思ってしまったこと。現代日本映画で、説得力のある悪役なんて成立させられるのか?


座頭市』のどれかで森雅之が演じた酷薄な盲目の金貸し(だっけ?)のように、そこにいるだけで“悪”を感じられるような秀逸なキャラクターを造れれば最高だが、難易度が高い。ならばと開き直って、戯画化された悪キャラでお茶を濁すのは嫌だ。特に女性の悪役の場合、分かりやすい「悪女=ファム・ファタール」キャラは日本映画だとパロディにしかならなくなってしまうという危惧もあって、どうすりゃいいと悩みました。(神代+酒井和歌子の一連の悪女モノはもちろんあるのですが、あのテンションの高さ、手を出すと失敗するのは、お分かりですね)


こんなときに指針になったのは、なぜか『ゴジラ』でした。理由もなくやってくる、「理不尽な暴力」を発動する圧倒的な存在にしよう、と思ったのです。今回は、精神的暴力ですが。
理不尽、を下手にやると『ファニーゲーム』になってしまいますが、女性はもともと理不尽な存在なので、そこに賭けて、今回はキャラクターを作ってみました。抽象的な説明で分かりにくかったら、すみません。映画を見てください。
そんな複雑なキャラクターを、西山朱子さんが多彩なニュアンスで魅力的に演じてくれております。感謝しております。


そして、この映画の主演女優は、久遠さやかさんです。
久遠さんは、岩松了の「隣りの男」という舞台を見たとき、感情の微妙な動きのニュアンスを、オーバーなアクションなしに表現できる能力を感じて、強く印象に残っている女優さんでした。その力量に比して、あまり役に恵まれていない女優さんという認識があり、今回お願いしました。
今回のヒロインは、理不尽な感情の暴力に翻弄されまくる、いわば「受け」がメインの、難しい役どころ。魅力を出すのにも苦労する、やりづらい役です。
実際に久遠さんに動いてもらうと、やはり“巧い”女優さんでした。しかし今回は、久遠さんが芝居の“巧さ”を超えて、存在の凄さをにじみ出てくるのを待ちたかった。そして久遠さんは、それに答えてくれたと思います。


それからもう一つ。この映画では、久々に「自分で脚本を書くこと」を課しました。
商業映画でデビューして以来、僕は有能なシナリオライターたちに助けられて何とか仕事をしてきました。他人に書いてもらうことで作品が膨らむ、と信じてのことでしたが、今回は、自分が書きたいことが一体何なのか、を裸になって知ってみたかったのです。自分の力量のなさを痛感する結果にはなるだろうが、自分が「どうダメか」を知るのもよかろうと思いました。


難行苦行の末、書いたシナリオでしたが、書いてみてビックリ!Vオリ時代に自分がいろんなライターに書いてもらったシナリオと同じテーマになっていたのです。すなわち、オブセッションに取り憑かれていく女が自壊するけど、そのことが幸せ、というお話(井川耕一郎さんからはそのテーマを「ああ、ふりまわされたい」と端的に要約されましたが)。
結局今回も!雀百まで・・・ということでしょうか。


今回の映画の最大の功労者は、プロデューサーの北岡稔美さんです。北岡さんが映画を作ろう、と言い出したのは5年ほど前。それから、不屈の熱意で監督の尻を叩き続けてくれたとともに、現場成立までの数々の難関を乗り切ってくれました。加えて、要求レベルの高い監督についてきてくれた、中矢名男人くん以下、若いスタッフの努力にも感謝しています。
そして、僕が映画鑑賞者として最も尊敬する人物、「映画の神様」と尊敬してやまない広瀬寛巳氏に、20数年前に知り合って以来ようやく、スタッフとして参加してもらったのも、うれしいことの一つです。


とにかく、一本の自主映画を撮りあげました。次はこのバトンを、大工原正樹君に渡したいと思います。



(『蜘蛛の国の女王』は、3月15日(日)13:30からPLANET+1で上映されます。
http://www.planetplusone.com/cinetlive/2009/works/