渡辺護、2012年の日本映画をふりかえる



映画の話をすると、「監督、そんなのまで見てるんですか?」と言われるけど、そうじゃないと、娯楽映画の監督はできないんだよ。
ヘルタースケルター』(監督:蜷川実花)、見に行ったよ。監督が蜷川幸雄の娘だろ。おれがテレビ役者でいい役やってた頃、蜷川幸雄は脇役で出ていたし、舞台に出ているのも見ているんですよ。役者から演出家になったひとだから、自分に近いものを感じるんだな。その娘だってんで、好意的に見に行きましたよ。
沢尻エリカが整形をくりかえして狂っていくって話だ。狂気のドキュメントなんだけど、そんなものを新しがっちゃ、ダメなんじゃないか。どこがいいの。あれは、沢尻エリカが脱いだから、うけたんだろうな。
るろうに剣心』(監督:大友啓史)も見た。佐藤健がよかった。それから、武井咲。あの娘はいいと思うんだよ。監督の演出もしっかりしていた。カットバックの腕がいい。ただね、立ち回りをそこまでやる必要あるの? ウソだろ?って思ってしまうんだよ。
『007 スカイフォール』(監督:サム・メンデス)もそうなんだよ。人間がそこまでアクションをやるか?ってね。今はそういうものなのかね。それでもいいのかな。
テルマエ・ロマエ』(監督:武内英樹)には上戸彩が出てた。結構、色っぽいんだよ。
ホタルノヒカリ』(監督:吉野洋)と『ひみつのアッコちゃん』(監督:川村泰祐)も見た。綾瀬はるかのファンなんだよ。それで見に行った。
あの娘の芝居は不潔な感じがしない。性格なんだよ。つくっていない。桃井かおり秋吉久美子とは正反対だ。得な女だね。綾瀬はるかを主演女優賞にしたいんだけど、でも、作品がねえ……。


おれはアカデミーの会員だからね、日本アカデミー賞、選ばないといけないんだ。そんなの、テキトーに書いて出せばいいじゃないのって、うちじゃ言われるけど、真面目だから考えましたよ。
外国映画のベストワンは、すぐに決まったよ。スピルバーグの『戦火の馬』。イーストウッドが出てた『人生の特等席』(監督:ロバート・ロレンツ)もよかったけどね。
ところが、日本映画に『戦火の馬』みたいにベストワンにしたいものがない。去年は根岸(吉太郎)の『ヴィヨンの妻 桜桃とタンポポ』にしたけれど、今年はない。
おれはおぼえてるんだ。成瀬巳喜男の『浮雲』と豊田四郎の『夫婦善哉』、どっちがベストワンかってのをね(ともに1955年公開)。どっちがベストワンになっても文句はないよな。そういうのが今年はないんだよ。それでは日本映画界は困るんだ。
阪本順治はどうなんだろう?と思って、見るつもりのなかった『北のカナリアたち』を見に行ったよ。
うまくまとめていると思うんだよ。阪本は演出的に信頼できるしね。でも、吉永小百合をポイントにして作ってるのがつらい。「吉永です」と言わんばかりの優等生的演技なんだよ。題材は悪くないんだから、作り方によっては面白くなったんじゃないか。
滝田洋二郎の『天地明察』。滝田はアカデミーとった滝田で、演出は丁寧だし、まとめているけれども、ごめん、ベストワンにはできない。さすが、滝田。だけど、優等生なんだ。作品に魅力がない。
去年の脚本賞は『大鹿村騒動記』の荒井(晴彦)にしたよ。今年は『夢売るふたり』(監督・脚本:西川美和)で行くかと思ったけれども、話が小さいかな。『のぼうの城』(監督:犬童一心樋口真嗣)が全体的に面白い展開でつくってあるから、脚本賞にした(原作・脚本:和田竜)。榮倉奈々がよかったけど、でも、作品に魅力があったとは言えない。
夢売るふたり』の松たか子はがんばっていたけど、前の方(『ヴィヨンの妻 桜桃とタンポポ』)がよかったかな。阿部サダヲがよかったよ。テレビで見て面白い役者だと思っていたけどね、『夢売るふたり』では男のバカさをうまく演じていた。主演男優賞だね。
ベストワンに選ぶものがないから、『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』(監督:本広克行)にしようかと思ったんだ。あれは脚本(君塚良一)だね。警察の上層部と現場の対立を描いたのは『踊る大捜査線』が最初で、他がまねしだしたからね。『相棒』なんかそうだ。でも、『踊る大走査線』は、いかりや長介が出ていた頃の方がいいね。
で、今年のベストワンは、『アウトレイジ ビヨンド』(監督:北野武)にした。
アウトレイジ ビヨンド』は「バカヤロー」「コノヤロー」ばかりだ。漫才なんだよ。西田敏行などの役者が漫才やってるのがおかしい。漫才やって飽きさせないのはさすがだ。
助演男優賞小日向文世にした。今年は大滝秀治助演男優賞に選ぶべきなんだろうけど、『あなたへ』ではね。
『あなたへ』の降旗康男は欠点がないというだけでね、増村(保造)なんかとちがう。性格が悪い石井輝男の方が上だと思う。
結局、映画は魅力がないと。優等生じゃダメなんですよ。 (2012・12・26)

ぴんくりんく編集部 企画
「ピンク映画50周年 特別上映会 〜映画監督・渡辺 護の時代〜」


2013年2月8日(金)〜12日(火)


2月8日(金)・9日(土)
『紅壺』(1965年/渡辺護監督/16mm)
『婦女暴行事件 不起訴』(1979年/渡辺護監督/35mm)
『三日三晩裏表』(1969年/東元薫監督/16mm短縮版)


2月10日(日)・11日(月・祝)
『おんな地獄唄 尺八弁天』(1970年/渡辺護監督/16mm)
『男と女の肉時計』(1968年/向井寛監督/16mm)
『素肌が濡れるとき』(1971年/梅沢薫監督/16mm)


2月8日(金)〜12日(火)  『糸の切れた凧 渡辺護が語る渡辺護』(2011年・122分・監督:井川耕一郎、出演・語り:渡辺護)★1日1回上映


2月9日(土)・10日(日)は渡辺護監督、井川耕一郎によるトークショーあり


会場:神戸映画資料館(TEL 078-754-8039)
 神戸市長田区腕塚町5丁目5番1
 アスタくにづか1番館北棟2F 201


詳しくは、神戸映画資料館公式HPをご覧ください。
http://kobe-eiga.net/