『グリム童話 金の鳥』感想(北岡稔美)



(以下の文章は、アニメーション作家・新谷尚之宛のメールとして書かれたものの再録です)


いやー、すごいですねぇこれは!こんな凄まじいパワーを持ったアニメーション作品は、今まで観たことありません。たかだか一時間弱の中にものすごいエネルギーが詰め込まれていて、それが上映によって爆発して観ている者を直撃するような、とんでもない作品だと思いました。あ、そういえばにいやさんの『人喰山』もそんな印象ですね。実写だと、脳とか心とか、割りとピンポイントにくるのですが、全身にビンビン伝わってくるというのは、アニメーションの特性なのでしょうかね。
話戻します。『金の鳥』。
空間の見せ方がものすごくダイナミックでビックリしました。
魔女がロボットを量産している様からカメラがグーッとひきながら俯瞰になって底の方までロボットが延々行進してるのが見える一連のカットや、
ハンスたちがワイン鳥(ロプロスのご先祖様みたいでかわいい!)の住む谷に落ちてくるところからワイン鳥に乗って地上に戻るまでのシーンや、
クライマックスで木馬に乗ったハンスとお姫様が巨大ロボットの周りを回るところや……
観ながら、これは紛れもない「映画」なのだ!と、興奮しちゃって。う〜、もっと大きなスクリーンで見たかった〜!
私が特に感動したのが二ヶ所ありまして。
一つは、あのワイン好きの鳥が翔び立つところ!
まず「ワインあげるから翔んでくれよ」と頼まれて翔ぼうとするシーンの、あの助走の長さがいい。思い出しても笑ってしまいます。
その後。流れからワイン呑んで翔び立つことは分かってるんですがね、その翔び立ち方がね、もう私のありきたりな予想をはるかに超えて、なんだかどう翔び立っているんだか、ワイン鳥も私も分からないようなことになってて、まるで小さい頃に初めてジェットコースターを体験したときみたいな感覚で、うぉー!と思ってるうちに鳥は翔び立ち私は涙……。
そうなんですよー、『ガリバーの宇宙旅行』でもそうだったのですが、物語と関係ないところで涙が出るのはなぜなのでしょう。画面の力に純粋に圧倒されてしまうってことなんですかね。あー、しあわせだー……。
これだけ盛り上げた後にやってくる繋ぎのシーンが、また心地好い。「あの城まで行ってくれよ」「やだよ怖いもん」って、それだけなんですけどね。なんかいい具合にホッとできて。
それからはもう乗りまくりでした。話の筋は分かっているけど、この『金の鳥』の世界では何が起こるか分からないぞ!というワクワク・ドキドキ感で、目が離せなくなりました。
金の鳥を見つけたハンスが、キツネの言いつけを守らず鳥を鳥籠に入れてしまうところ。ハンスが鳥を籠に入れた瞬間、ハンスのアップに鉄格子がガシャン!ガシャン!ガシャン!と降りてきてハンス(と私)がビックリしてるとロングのカットに変わって、あっハンスは小さくなって鳥籠に入れられちゃったんだ!ということがわかって、そんな単純な驚きが嬉しかったりして。
王女さまの寝室に忍び込んだハンスが王女さまの寝顔をみながら夢想するシーンはファンシーすぎて辛かったですが(笑)、でもあれも王女さまのキャラとのギャップを際立たせるための効果なんですね。王女さまかわいいし。
そうそう、背景がですね、淡い色彩できれいだなあと。特に木が素敵。あのキャラクターたちの世界にピッタリ合っている。魔女側の世界の色も雰囲気が出てて格好いい。
あ、魔女といえば。魔女と手下のコウモリたちのミュージカルシーン(?)がありますよね。ああいうシーンがあると、非常に嬉しいなあと思いました。昔好きだった『ムテキング』のモンスターやタコベーダーたちのそういったシーン(大好き)を思い出したりして。今のアニメーションって、そういうのあるのかしら?
そしてついに敵陣に乗り込んでいってから。あのロボット!初めは猫背で丸っこくてヨチヨチ歩いてて可愛いなあと思ってたのですが、目がピカーッと青白く光ったら、もう恐い!そのうち脚が伸びて、目がサーチライトになって、それが何体も何体もになって出てきたら、更に恐い。中身空っぽなのにバラバラにされても勝手に再生する。恐い、恐いよ〜。こんなロボット相手じゃ太刀打ちできないよ〜と本気でハラハラしました!
で、どうなるかっていうと、前に進むことしか教えられてないロボットたち(爆笑設定)は、レミングの群れのように崖からまっ逆さま。うーん、このギャップというかメリハリというかが素晴らしい!
そんでクライマックス、巨大ロボットとの対決で、金の木馬に二人でまたがって戦うわけなんですが。その理屈が素敵で。「勇気ある心のきれいな男の子と女の子が乗ると空翔けるのだ」!すっ、すんばらしい!!こういうのって、たいていは作者の都合っぽいウサン臭さがつきまといそうなものなにの、これは単純に、そうか!そうなのね!と納得してしまう。これもちょっと驚きでしたね。そう感じるのと感じないのとの差は一体?
実は『金の鳥』を見る前に、『龍の子太郎』を見たのですね。で、雪に埋もれた太郎を笛吹きの女の子が馬に乗って助けにくるくだりがあって、そこで「この馬は大きくなって空も翔べるようになったのよ」という全く納得いかない説明台詞があったので、ついそんなことを考えてしまったのかもしれません。
話逸れますが、『龍の子太郎』はリアルタイムで見てたはずなんですが、すっかり忘れてまして(クライマックスの龍の体当たりのシーンだけはなんとなく記憶があったのですが)、今回は新たな気持ちで観たわけですが、イマイチでしたね。ところどころ見てて喉元に詰まる感じで、すんなりお腹にたまっていかない。さっき書いた馬のくだりもそうだし。でもなー、原作も忘れちゃったからなー、どうなんでしょ。そのうち読んでみようかと。
さて話は戻りまして。
魔法の木馬に乗った二人が巨大ロボットの周りを回るあの一連!私が最も感動したもう一ヶ所。木馬に乗った二人の正面から、ロボットの周りをグルーーーーッと回る長い長ーいカットを見てて、もう唖然としてました。素晴らしすぎて。ここでもやっぱりねー、涙出ちゃったんですよー。なんなんだよこれはー!と、頭の中真っ白になりましたね。おかげでどうやって巨大ロボットを倒したかという肝心なところをよく覚えてないのです(笑)。ワイン鳥がやってきて、再登場で嬉しかったのは覚えているのですが、もしかしたらこのシーンの前だったかしら……??
こうして魔女は倒され木になって(あの木もいい!またいつ魔女が力をつけてよみがえって来るか分からない不気味さを残した感じが素晴らしい)、姫の兄さんは人間の姿に戻り、ハンスのお城では祝宴が催され、ワイン鳥も宴席にいたりして、めでたしめでたし。このエピローグも心地好いテンションで良かったです。


こんな感じで見たままを、感じたままに書いてみました。すごい作品を観た後は反芻して記憶を定着させるよう努めているのですが、すでに記憶ちがいな部分もあるかもしれません。ご容赦ください。


今回は東映アニメーションを何本か観てきたわけですが、やはり私のベストは『ガリバーの宇宙旅行(の前半)』と『金の鳥』ですね。にいやさん、ご教示ありがとうございました。他の作品もそれぞれに味があって良かったですし、勉強になりました。 


ところで先日いただいたCDの話。どれも名曲揃いで好きなんですが、思わず口ずさんでしまうのは「レミ」と「長靴をはいた猫」(これは小さい頃から)と「カラバ様」ですね。あ、あと「空飛ぶゆうれい船」の「隼人のテーマ」がロマンがあって好き。それにしても聴いていると、映画のシーンがよみがえりますね。ガリバーの遊園地のシーン(大好き!)や、レミのクライマックスシーンとか。もう一度見たいなあ。



グリム童話 金の鳥』
1987年/カラー/52分/配給:東映
監督:平田敏夫/脚本:田代淳二/原作:ヤーコブ・グリム、ウィルヘルム・グリム/キャラクターデザイン・作画監督:大橋学/美術監督:石川山子/音楽:ク二河内
声の出演:三輪勝恵藤田淑子富山敬木ノ葉のこ滝口順平宮内幸平八奈見乗児青野武古川登志夫山本圭子