渡辺護、『浅草の踊子 濡れた素肌』について語る。



(このインタビューは、2012年8月23日にmixiに載せたものです)


今日、載せるのは、『浅草の踊子 濡れた素肌』(踊子と書いてストリッパーと読ませる)についての話。
ポスターを入手したので、そこに書いてある情報を記しておく。


『浅草の踊子 濡れた素肌』
<ストリッパーの世界を描いて最高…果たして誰が彼女をそうさせたか……!?>
製作:斉藤邦唯、企画:井上猛夫
監督:渡辺護
出演:可能かづ子、枡田邦子、香川あけみ、春名すみれ
配給:株式会社センチュリー映画社


今回の話も、「そうしてねえ、可能かづ子と一緒にね」と言ったあと、脱線が始まって、浅草のコメディアンの話が延々と続く。
しかし、当時のコメディアンの様子を伝える証言でもあるので、カットせずに残すことにした。


――次に撮った『浅草の踊子 濡れた素肌』(66)は、これもタイトルどおり、浅草が舞台ですか?


順番、間違えてねえか。(作品リストを見て)ああ、こうやって撮ってたんだね。あのねえ、それは丸林(久信)さん(の脚本)。で、それとねえ、『絶品の女』(66)とが、おれの中でだぶっちゃうんだよね(注:『絶品の女』の脚本も丸林久信)。『絶品の女』はずっとあとになってる?


――あとですね。


ええっとねえ、『浅草の踊子』ってのは、これはストリップの話で、浅草には友だちが多いから、いろんな話を聞いてて。ストリップ劇場のコメディアン、みんな、知ってましたからね。
これはねえ、カジノ座って言ったかなあ、大勝館の地下です。カジノ座ってところで撮影したんですよ。これは(高見順の)『胸より胸に』――、あれとはちがうけど、あれとよく似てるわなあ。
踊りが好きで踊ってんだけど、まあ、男にだまされて、一番最後に、「あたし、踊りがあってよかったわ」って言って、また舞台に立って踊って、花道を可能かづ子が歩いてくところで終わったんだけどね。それ以外、おぼえてねえ(笑)。
やっぱり、浅草だから、観音様でね。(可能かづ子が)さい銭やって、こうやって(手を合わせて)、「踊子になるんだ」ってところからね(始めた)。セーラー服、着てね、おれ、話忘れちゃったなあ。わるいホンじゃなかったですよ。
たしかねえ、回想シーンでねえ、女学生でモンペはいてね、一生懸命、畑仕事やってたら、後ろから暴行されて。ニワトリがキャッキャッキャッキャッて鳴いてるところ撮って、そことカットバックで暴行シーン撮ったんですよ。ピーッとモンペをひっちゃぶいてやる暴行シーンがあってね。
村にいちゃ、みっともないってんで、親戚の姉さんがストリップやってるところに来て、「あたしもストリップやる」って言って。
浅草観音様に手をあわせるところを、ちゃんと五社並みに(本堂に)キャメラ入れてやりましたよ。そしたら、ヤクザの仕切り屋が来るんだよ。で、おれには知ってるこれ(「頬に傷」という手つき)がいるじゃない。そういうの、(制作進行の)天野が用意してあるから、OK、大丈夫って、堂々と浅草で撮ってたよ。仕出しは使わなかったけどね。浅草はひとがいるから、隠し撮りでやってましたけど。それから、浅草の六区を歩くシーンはね、交番の二階借りて撮ったから。
捕鯨船ってところ――あれは昔、一六酒場ってところで、撮影終わると、飲んでたよ。これも(『紅壷』の浅草ロケと同じように、撮影が)夜なんだよ。ストリップ劇場で夜撮って、昼間遊ぶわけだよ。それでミトキン(美戸金二)だとかさ、いろんなコメディアンがいたんすよ。それはもう、渥美(清)と一緒に出てたやつらが出てましたよ。
ストリップ劇場に、「これは撮ってくれるな」と言われたんだけど、楽屋にお風呂があるんだよ。踊子さんがみんな、その風呂に入る。だから、支配人に「風呂は使わないでくれ」って言われたんだよ。
ところがね、見たいよな。昼間、ミトキン知ってるから、ミトキンの楽屋、行ったふりして、ふっと見たら、踊子さん、ぱっぱっと脱いで、チャッチャッと洗ったりなんかしてさ、ケラケラ笑ってて。あれ、撮りたいなあ、と思ったけれども、できなかった。それ、おぼえてるよ。
そうしてねえ、可能かづ子と一緒にね……夜撮影で、昼間は暇だから……夜中になる前に何時間か寝ればいいんだから……、なんて旅館だったかなあ、モンブランって喫茶店の裏の方にあるんですよ。そこの旅館、よく使ってて、懐かしいんだけど。
そうすると、(ストリップ劇場に出ている)コメディアンがねえ……、まあ、エッチな話なんだけど。
「(ストリップ劇場の風呂で)女のひとが頭洗って、こっちにお尻向けてる。お尻がパカッとあって、堂々としてるから、しょうがないから、あれ出したら、入っちゃったんだよね。そうしたら、女のひとが、あら!ってふりむくから、ごめんなさい、と謝ったら、いいえ、って(髪洗いながら)言ったからね」
――って、コメディアンの言うことだから、これ、本当かウソか分からないよ。そういうエロ話、やるのよ。
(コメディアンから聞いた)そんな話、ご披露しますよ。
「ストリッパーで、田舎から出てきたばかりでさ、踊りもできないでね。ただ、(不器用な手つきをまねて)はっ、はっ、はっ、とやってるだけのストリッパーがいて、それがねえ、お腹をすぐにすかせて、何か食いたいんだって。そうするとね、うどん一杯食わせてやると、やらせてくれるってんだよね。それで誘って、うどん食わしたら、あたし、今日はアレなの、って言って断られた。損しちゃったよ、うどん一杯」
そういう下らない話ばっかりするんだよ、あいつらは。
場所は捕鯨船よ。捕鯨船にはファンがいるでしょ。ストリップが好きなすけべじじいが。で、風邪薬を黄色の袋に入れて、「これを飲むと、あれのたちがよくなる」って言って、高い金で売っちゃうわけだよ。そうやってコメディアンは金もうけてたんだよ。
「そうしたら、あれ、効いたよ、まだある?って言うから、えーっ!と思っちゃってさあ、ナベちゃん」なんて言ってんだよ。どこまでホントかウソか分かんないよ。だから、そんな話を(コメディアンから)聞きながら、撮影やってましたよ。
昼間は暇ってことじゃないけど、一応、暇だから、参考までに舞台を見ておくかってことで、可能かづ子と見たんだよ。そうしたら、コメディアンがさ、「なあ、おれんとこは予算が足んないからさ、それが撮れねえんだよな。これ、まけてくんないか」って、ピンクの世界の裏話をもうコントでやってるんだよ。笑っちゃったよ。
「予算がないからね、きついんだよ。で、そこでぱっと脱いでくれる?」「やだわ」「そう言わないでさあ」「あたし、創価学会だから」「そうか、ガッカイしたなあ」なんてやってんだよ、コントで(笑)。


――『浅草の踊子』は、企画としてはストリップの世界を見せますってことですか?


うーん、竹野さんがキャメラだったからねえ、そんな下品じゃなかったですよ、映画は。
そのときだよ、ラッシュを南部泰三(注:ピンク映画の監督。渡辺さんは二本、助監督でついている)が見に来てさ、「ああ、画がきれいだ」って言ったの。可能かづ子がきれいに映ってたんだよね。
可能かづ子のことではね、もめたんですよ。新宿御苑にね、コン(正式名称未確認)という飲み屋があったんですよ。そこに年中、向井とか、若ちゃん(若松孝二)とか、日本シネマの社長(鷲尾飛天丸)なんか出入りしてたんですよ。そこでさ……おれ、何の話をしようとしたんだっけ?


――可能かづ子の話ですよ。


そうそう、可能かづ子と、若松孝二と、日本シネマ(の社長)と、おれがいたわけ。
そうしたらさ、若ちゃん、よせばいいのにさ、やっぱり、自信満々なんだよ、監督としてね。渡辺護なんか屁でもねえってのがあるわけだよ。「どうだ、可能よ、ナベさんのとこの映画出てよ。いや、おれの方がいいだろ」って言ったら、「ううん、渡辺さん」。
そうしたら、ショック受けてね、若松が。ええっ!って。『壁の中の秘事』(65)をやってるしさ、そりゃちがうだろ、全然差があるだろ、みたいな顔してんだよ。「渡辺さんの方が、わたしをきれいに撮ってくれるから」。あれで、若松はね、可能かづ子は二度と使わない、って言ってたよ。無邪気なもんよ、その頃の監督は。


――可能かづ子の役は男にだまされるってことですけど、そのへんのところは?


それがねえ、姉さんがいて、ストリッパーになるんだよね。あんまり、おぼえてねえんだよな。シーンをおぼえてない。(男に)裏切られるんだよね、たしか……。
撮影は大変だったですよ。だって、カジノ座の音楽やるひとがちゃんといるんですよ。そのひとたちに頼んで、本当にやったからねえ。カジノ座借りて、ちゃんと客入れてね。中抜きで寄りをあとで撮るってことは言われましたけどね。キャメラで、あっちから引きだ、こっちから引きだってやるんだよ。面白いんだよ、ストリップ劇場ってのは。
ところが、映画のストーリーはおぼえてないねえ。
おぼえているのは、一番最後に楽屋に行くと、いるじゃないですか、楽屋担当のおじさんが。(そのおじさんと)「おお、元気? なんかあった?」どうのこうのって会話があって。「じゃあ、またよろしくね」って言ったあと、「ねえ、おじさん、わたし、踊りがあって本当によかったって思ってるの」というのが決め手の台詞なんだよ。それで次、ばーんとライトがあたるとさ、メイクした顔がさ、きれいに映って、ぱっと踊る。
で、踊りがうまいんだよ、可能かづ子は。


――踊るところは振付師を呼んだんですか?


ええ、もう私のことですから、ちゃんと浅草にそのすじはいますから。
ほら、(飲み屋の)赤提灯の家が浅草にあるんだよ。その二階に南原宏治が稽古場にしてた部屋があるんですよ。そこでもって稽古したんだから。それから、「うち使え、うち使え」ってのがあって。(お好み焼き屋の)染太郎の実家のとこにも稽古場があるんですから。そこも使えと言われたけど、赤提灯の顔、立てないとまずいんで、赤提灯の稽古場使ったけど、面白いんだ、浅草は。「なに、まっちゃんのとこでやって、うちはダメだっていうわけ? よう、ナベさん」って、そういう感じだから。


――クランクイン前に踊りの練習を。


そりゃもう、きちっと。だから、好きなんだねえ、踊りやるのが。また、可能かづ子が一生懸命やろうって気のあるときだったから。
だけど、可能かづ子の名前(が有名になったの)は、若ちゃんの壁の中の何だっけ、秘事? あっちの方がインパクト大きいけどね。
でも、本当にきれいに撮ったですよ。おれはあんまり神経使ってなくて、キャメラマンまかせだからね。竹野さんは『あばずれ』のときはそうじゃなかったけど、『浅草の踊子』で、可能かづ子の顔を撮るときはものすごく凝てったねえ。
で、可能かづ子におみやげなんか買ってきたりして。好きだねえ、このおじさん、と思ったよ。「はい、これあげる」ってね。なんか、やめりゃいいのに、いい年こいて、と思ったよ、ちっちゃいぬいぐるみ、あげたりしてさあ。いい年こきやがって、竹野さんさあ。ああやって財産なくしたんだな。名キャメラマンで、いい金とってやってきたのにさ、ピンク撮んなきゃいけなくなって……。


――竹野治夫との関係は『あばずれ』のときみたいな感じではないんですか?


いや、同じです。ただ、おれが慣れてきたからね。そうしたら、言ってたよ。「ナベさんもねえ、一本、二本、やってきて、演出がきちっとしてきたよね」って。