乾杯!ゴキゲン野郎(シネマ)〜シネマGOラウンドによせて〜(常本琢招)


「ハッピーになれるデェ!」とは、阪本順治の呪われた映画『ビリケン』の惹句だったが、僕も今回、完成以来久々、『シネマGOラウンド』の作品たちを見直して、とにかくハッピーな気持ちになったことをまず告白する。なぜか?それはこの映画たちが、今の眼から観ると、それぞれの監督たちが新しいジャンプを行うための、小さな、しかし確実な一歩になっていたのを確認できたからだ。
観る者をハッピーにしてくれる映画がめっきり少なくなった昨今、それだけの理由でもこの上映会、観に来る価値がありまっせェ!と太鼓を叩いて、さらに各作品に触れる前に、ゴキゲンなこの映画たちを語るには、最も敬愛する文章家・故殿山泰司のゴキゲンな文体がふさわしいと思うので、それでイかせてもらうぜヒヒヒヒ。


 『夜の足音』にはとにかく驚かされたなア。万田さんがついに“感情”を取り上げやがったからさ。オレがそれまで一番好きだった万田さんの作品『GIRIGIRIまで愛して』と比べると、まるで別人が作った映画のようだぜ。実は万田さんは人間ドラマが大得意なんだけど、慎み深い性格のせいで今まで隠していたんだなア。蓮実重彦が昔ゴダールについて、「実は観る者の感情を揺さぶる映画を作るのが一番得意なくせに、それを隠している」ってたしか言ってたけど、それを思い出したぜ。
なぜか70年代のイタリア映画を思わせるささくれ立った青春映画の中で、主演の男(最初はなぜこの役者を?と疑問だったのが、だんだん良くなる)が時折見せる荒涼とした表情にオレは胸をズドン!!とやられたね。ボク、オカマとちゃうでェ!!


 『寝耳に水』にはとにかく肯かされたなア。井川さんは常々「僕は演出は下手」と韜晦してるけど、なんのなんの、『ついのすみか』を観れば、井川さんがいかに厳格で個性的な文体を持った演出家であるかお分かりですよねミナサン??それがこの『寝耳に水』を観ると、『ついのすみか』で頂点に達した室内演出の完成度の高さを、今回は崩そう、というか方向転換させようとしているのが見え、新しい演出にチャレンジしようとするその戦いぶりには同じ演出家として共感させられたぜ。お前はなんやねん、井川さんにいいホン書いてもらったお陰で監督面させてもらってるのに、偉そうなことを言うなッ馬鹿!!ヒイヒイ!!


 『桶屋』にはとにかく笑わせられたなア。西山さんの映画はいつもクイクイと見せられて、終わったあとにこの人なんでこんな発想できるんだろうと慄然とさせられるの。今回もドンピシャでその通り。「それぞれの監督たちの新しいジャンプ」って書いたけど、西山さんに関してだけは鈴木清順がそうであるように、ずっと変わらずに鉄板の演出で攻め続けるんだろうなと痛感したね。ウーン!西山さんの映画を観ると、オレの映画がいかに“フィーリング”という曖昧な感覚に流されやすいかを突き付けられるぜ、クククク!アンタ泣いてるのね?


 『月へ行く』にはとにかく襟を正されたなア。植岡さんの映画はこれまで、映画を愛する人が「映画」を描こうとして作っている、という印象だったのが、今回の『月へ行く』は「人生」を描いてるぜ。時々映画ファンらしいお遊びもあるけど、この作品には、親子愛・男女の愛、憎しみ、喜び、悲しみ・・・人生の諸相がすべて詰まっていて、40分の映画でオレに人生とは何かを教えてくれた。自主映画を観て、まるで加藤泰のようだと思ったのは、初めてだぜ。植岡さん、サンキュー!!大きくなった植岡さんの後姿を見て、オレはまた泣いた。


(『シネマGOラウンド』は映画秘湯上映会「夏祭@映美」(映画美学校第二試写室・8月19日(土)13:00〜)で上映されます。詳しい情報はこちらをどうぞ。
http://d.hatena.ne.jp/eigahitokw/20060819

各作品のあらすじ

『月へ行く』(植岡喜晴)

豆腐屋の娘、柿の木坂ナオは、担任教師の小山に犯され妊娠して高校を休学中。彼女は、空飛ぶ円盤が自分たちにピンクの光線を浴びせたと公言し、だからお腹の子は宇宙人だと固く思いこんでいる様子。一方、父親のテツゾウも、時を同じくして妻のタマエに家出され、ナオとともに憂鬱な日々を送っていた。
そんなある日、レイプ事件で高校を首になり放浪生活を送っていた小山がふらりと現れ、柿の木坂家に間借りし始めた。そして家を捨てたはずのタマエまでテツゾウとナオの前に姿を現すのだが、小山にはなぜか二人と話すタマエの姿が見えない。テツゾウはタマエの出現に怯え、ナオは激しい気性で彼女を撃退する。
東京に小さな地震が頻繁に起こり出し、テツゾウに想いを寄せていた雇い人の広子が謎の死を遂げるに及んで、ナオは無口になり、テツゾウの心のタガは次第にはずれていった。テツゾウは豆腐作りを止め、ナオの入れ知恵で、新聞の娯楽記事に掲載されていた「ネズミ爆弾」造りに熱中し始めた。


監督コメントと作品解説
http://www.cinematopics.com/cinema/works/output2.php?oid=1626
(4作品とも解説は筒井武文


『夜の足跡』万田邦敏

川岸に、一人の少年が寝そべっている。傍らに赤いリュックサックが置かれている。同じころ、小さな印刷工場では24歳の青年・洋が働いている。真面目で腕のいい彼は社長夫婦に気に入られていたが、不景気の折から、夫婦は洋に工場を辞めてもらうほかないことを相談している。気のいい社長はそれを洋に言い出せない。自宅に帰った洋は、数年来音信が途絶えていた母親からの留守番電話を聞く。しばらく弟の潤の面倒を見て欲しいという。洋は潤とも数年来会っていない。土手に寝そべっていた少年が潤だった。その夜、二人は再会するが互いに相手を無視するような態度だった。翌日、洋は社長から首の話を聞かされる。洋の地味で単調な生活の歯車が狂いだした。帰途、洋は川岸で異様な光景を目の当たりにする。それは、15歳の時に殴り殺した父親の亡霊だった。消し去ろうとしても消えない忌まわしい過去の記憶が洋を襲う。潤は、洋の蛮行が下人で一家離散したことをなじり、洋の部屋を飛び出す。行き場を失った洋は、かつての恋人に助けを求めるが、彼女にも見捨てられる。洋は潤を探し出す。洋にとって、兄弟という血のつながりだけが自分をこの世界に繋ぎ止めておく唯一の絆だった……。


監督コメントと作品解説
http://www.cinematopics.com/cinema/works/output2.php?oid=1627


『桶屋』西山洋市

この映画のストーリー展開は、日本の古い諺「風が吹けば桶屋が儲かる」のプロットにのっとっている。すなわち、1.大風が吹く。町には砂ぼこりが舞い上がる。諺によれば、この砂ぼこりによって多くの人々が目をやられ、失明するという。2.盲人たちは、古来からの日本社会の伝統に従い、こぞって三味線を習い始める(それを生きる術とするために)。当然、三味線の店は繁盛し、三味線は不足する。3.三味線の皮の原料は猫であった。そこで、町には猫狩りの嵐が吹き荒れ、瞬く間に猫の数が激減する。4.すると逆に、ネズミの数が爆発的に増える。ネズミが暴れて人々に被害をもたらす。諺によれば、ネズミたちは桶を齧るのだという。5.こうして桶屋が繁盛するというのである。
……このような異常事態が発生した世界に住んでいる無為徒食の主人公3人が、事態に多かれ少なかれ影響を受けつつ、彼らのペースで生きてゆく様子を描く。


監督コメントと作品解説
http://www.cinematopics.com/cinema/works/output2.php?oid=1629


『寝耳に水』(井川耕一郎)

真夜中、ぽたり、ぽたり……と、水の滴り落ちる音がどこからか聞こえてきて、それが主人公・坂口の記憶を呼び覚ます。
三年前の夜、坂口の部屋をふらりと訪れた長島。大学の後輩だった彼は坂口に、近頃、くりかえし見る奇妙な夢の話をする。その夢は、長島の恋人で、交通事故で亡くなった弘美にまつわるものであった。残り火のように長島の心の中でいまだ燃えている弘美への思い。夜ごと、水を滴らせながら長島の枕もとに立つ彼女の幽霊。やがて頭の中で激しく燃えだした火に、長島は苦しみだす。するとある夜、その火を鎮めに来たかのだろうか、弘美の幽霊の口から長島の耳へと一筋の水が注ぎ込まれた……。
一体、長島はどういうつもりでこんな話をするのだ? 坂口は、長島の死んだ恋人に対する狂おしい思いにとまどいつつも、その夢の話に魅了されていく。
その数日後に、長島がビルから飛び降り自殺してしまうことになるとも知らずに……。


監督コメントと作品解説
http://www.cinematopics.com/cinema/works/output2.php?oid=1628

おすすめサイト

TM/SHOP(戸田昌宏ファンサイト)
http://www.saturn.dti.ne.jp/~sakusaku/

「M・TODA」−「KEYWORD」−「月へ行く」の順に進んでいくと、次のような文章が出てきます。

6月から7月7日の七夕の日まで 上映された「シネマGOラウンド」の中の 一作品「月へ行く」に 戸田さんが出演されるという情報を知り、このサイトで情報を アップしたり、シネマGOラウンドさんのサイトからも リンクいただいたりと 非常に積極的に 活動したわけですが、みなさん 行かれましたか?もちろん 地方の方は 色々と事情が許さない事もあるでしょう。私は幸い何度か足を運ぶことができました。4回行ったのですが 最終日の トークショーで 井川監督に 「戸田さんのファンで 何回も観にきてる人がいて、貪るように 観ているらしい。」と 喜ばれているのか あきられているのかわからない 微妙な トークのネタにされました。

『月へ行く』だけでなく、他の3本の作品の感想も書いてあるのですが、くりかえし見たうえでの感想なので、なかなか面白い読み物になっています。