シニカルな痴漢たちのユートピア―――大工原正樹『痴漢白書8』(非和解検査)

『痴漢白書8』の物語は、結婚を間近に控えた看護士・みゆき(岩崎静子)が電車の中で官能小説家・倉持(諏訪太朗)に痴漢行為をされるところから始まり、婚約を破棄して倉持を選ぶところで終わる。この《倉持を選ぶ》に至るまでのいささか胡散臭い過程をいかに描いていくかが演出の焦点となってくるはずであり、作品にはそのために配されたであろう細部が散見されるのだが、それらはこの過程に説得力を与えるように機能しているというよりは、むしろその逆に働いているようにさえ見える。すなわち、物語が進行するにつれて、みゆきが《倉持を選ぶ》という行為がありえないことのように思えてくるのである。

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