「ヤクザと地底人間」は、地上と地底を往復する人間たちの、ささやかな物語です(青山あゆみ)

 「ヤクザと地底人間」は、地上と地底をさまよう人間たちのささやかな物語です。
 監督からの「ヤクザが主人公の短編」というお題に、一体何を書けばよいかと悩んでいた頃、途方にくれてよく空を見上げていました。その先には宇宙があり、宇宙の果てには未知の物語や、新しい発想が転がっているはず。それらを引き寄せて、新しい物語を作ろう・・・それはまさに逃避であり、貧しい想像からは当然、何のアイデアも生まれませんでした。‘広く遠く’考え過ぎてはいけないと反省し、‘狭く近く’地面の下へ逃げていった結果、今回たどりついたのが「地底国」という理想郷です。
 戦いに敗れて地上を追われた者や、地上になじめなかった半端者たちが、「地上がだめなら地底があるじゃない」と開き直って築いた地底国。地上に対する憎しみ、嫉妬、あこがれ、逆恨み、栄養たっぷりの土・・・それらが混ざり合う場所。数十年、数百年を経て、地上人からその存在を忘れられた頃、ひとりの傷ついたヤクザが迷い込み、地底人の娘と出会ったことから「ヤクザと地底人間」は始まります。
 やさぐれた絆で結ばれたヤクザと娘は、ひとつの計画をこの世に生み出します。それはささやかな地上転覆計画であり、生き残った地底人たちにとってはただひとつの希望でもあるのですが、彼らのあてにならない希望は、果たして叶えられるのでしょうか・・・。



 監督・植岡さんは、地底人間を蔑むことなく、シナリオを引き受けてくれました。そして美学校の期を超えた個性的なスタッフが集まり、役者さんが集まり、映画は無事完成に至りました。スタッフは、白熊、宇宙服、人体発火・・・と次から次へと出てくる監督のアイデアに翻弄され、やけっぱちになりながらも、その変テコさ・おもしろさに乗せられるようにして撮影を乗り越えていったような気がします。そして、そのすべてを支えていたのは何より、監督自らが楽しんでいたことだったと思います。
 そしてもうひとつ、キャストの方々がこの映画を大きく支えてくれています。時に過酷な状況の中、監督の愛を受け、土にまみれながら、キラキラと輝く役者さんたちをぜひご覧ください。


 今振り返ると、現場の寒さも、炎の恐怖も、皆の寝不足も、遠い星のように思い出になってしまいました。やり残したことは土の中に埋め、「ヤクザと地底人間」メンバー一同は解散し、皆それぞれ地上でがんばっています。残された映画「ヤクザと地底人間」が、宇宙でキラキラ輝く星たちの片隅に、そっと仲間入りできたらと願っています。


青山あゆみ映画美学校フィクションコース6期生。1st Cut「春雨ワンダフル」監督。「ヤクザと地底人間」脚本・助監督。