大和屋竺の『愛欲の罠』をニュープリントで上映!

大和屋竺(やまとや・あつし)のシナリオ集『荒野のダッチワイフ』を編集していたときに、一番くやしかったのは、『愛欲の罠』が見られないということでした。
たとえば、シナリオに書かれたこんな場面――、

  フランケンシュタインに似た怪物(西郷)が大型拳銃を構え、飾り物みたいな小人の腹話人形(マリオ)を肩に乗せている。
 マリオ、小型ピストルを振り回し、喋り散らす。
マリオ「あんた俺を知ってるかい。美男のマリオってんだ。世界でいちばん美い男だからって、こいつがそう言うのさ。なあ、西郷」
西郷「そうとも」
  西郷、死んだ魚のような眼球をギョロつかせる。
マリオ「なあ、世界で一番の色男は誰だっけ?」
高川「あんただ」
マリオ「この俺かい?」
高川「そうだ、美男のマリオだ」
マリオ「それじゃ、いちばん馬鹿な男は?」
高川「あ……?」
マリオ「そこにいるじゃないか、ほら、ドアの外に、殺し屋の星が」
  星、鍵穴から素っ飛びのき、射つ。
  ドカッと扉に穴が開き、その向うで佇立した西郷の胸部が黒く弾ける。
「ギャッ!」
  西郷、胸に穴ボコを開けたまま進んで来る。
  星、動転し扉をへだてたまま連射する。
西郷「火遊びは止しな。大怪我するぜ」


一体、この奇妙な場面は完成した映画ではどうなっているのか。
小水一男が西郷を、秋山ミチヲがマリオを、荒戸源次郎が星を、そして、大和屋が高川を演じていたというのですが、『愛欲の罠』のフィルムがどこにあるのか分からないというのでは、確かめようもない。
頭の中でとりとめない妄想ばかりがふくらむばかりでした。


ところが、数年前、その『愛欲の罠』が見つかったという情報が……。
そして、ついに『愛欲の罠』がニュープリントでよみがえり、
一角座(上野公園・東京国立博物館西門)で上映されるそうです(7/7(土)〜7/13(金)・8/4(土)〜8/12(金))。


『愛欲の罠』(ニュープリント)
1973年・73分・35mm・シネマスコープ
製作:天象儀館
監督:大和屋竺、脚本:田中陽造、撮影:朝倉俊博、音楽:杉田一夫
出演:荒戸源次郎絵沢萌子、安田のぞみ、小水一男、秋山ミチヲ、中川梨絵、山本初男、山本昌平、大和屋竺


<チラシより>


大和屋竺監督『愛欲の罠(朝日のようにさわやかに)』は『ツィゴイネルワイゼン』から遡ること7年前の1973年、荒戸源次郎が初めて携わった映画です。初期衝動に溢れた愛すべきこの映画の原版は長らく所在不明でした。ところが偶然、原版が発見されたのです。
一角座では、この機会に大和屋竺監督の映画4本を特集上映することにいたしました。
大和屋竺監督ファンの方は勿論、初めて大和屋竺の世界に触れる方も、笑ったり吃驚したりして、どうぞ心ゆくまでお楽しみ下さい。


『愛欲の罠』
7/7(土)〜7/13(金) (7/9(月)休館)
15:00/17:00/19:00
ゲスト:7/7(土)18:20  秋山ミチヲ・小水一男


『毛の生えた拳銃』
7/14(土)〜7/20(金) ( 7/17(火)休館)
17:00/19:00
ゲスト 7/14(土)18:20 麿赤児・大森立嗣
    7/15(日)18:20 大久保鷹・上野昂志


『裏切りの季節』
7/21(土)〜7/27(金)  (7/23(月)休館)
15:00/17:00/19:00『裏切りの季節』
ゲスト 7/21(土)18:20 河内紀・上野昂志



『荒野のダッチワイフ』
7/28(土)〜8/3(金)  (7/30(月)休館)
15:00/17:00/19:00
ゲスト 7/28(土)18:20 菊池成孔荒戸源次郎


『愛欲の罠』
8/4(土)〜8/12(金)  (8/6(月)休館)
15:00/17:00/19:00
ゲスト 8/4(土)18:20 上杉清文荒戸源次郎
    8/11(土)18:20 浦沢義雄大和屋暁


当日1200円
前売1000円
リピーター割引(半券提示にて) 500円
会場:一角座(東京国立博物館西門)
電話 03-3823-6757
公式サイト  http://www.ikkakuza.com