にいやさんと『人喰山』とわたし(北岡稔美)


にいやさんと初めて会ったのは10年前。思えば長い付き合いだ。
にいやさんは長電話が好きだ。気が付くと1〜2時間喋っていることはザラである。たいていにいやさんが喋っている。ほとんど雑談だが、雑談の中で色々とレクチャーしてくれる。アニメーションは勿論のこと、マンガから映画から昭和歌謡から健康食品から、とにかく引き出しがいっぱいなのである。だから楽しく、とてもためになる。
にいやさんはマンガも描く。ヘンテコなお話ばかりなのだけれど、最後は感動して泣けてしまう。癒し系なのかもしれない。
にいやさんの描くキャラクターはとても可愛らしい。オドロオドロシイ絵も描くけれど、オドロオドシイ中にも不思議と愛嬌がある。タッチが丸っこいせいかしら。
にいやさんとは、ときどき遊びに行く。映画、芝居、展覧会……にいやさんは反応がストレートである。面白いものを観たときは脳がものすごく活性化するらしく、延々と感想を語り続ける。そのときのにいやさんは、嬉々としてとても幸せそうである。
そんなにいやさんであるが、一時期付き合いがパッタリ途絶えたことがあった。
電話をかけても映画に誘っても、いつも「忙しいんでまた〜」と答えるだけだった。
今思えば、それは『人喰山』の制作に入ったからだったのだ。
今回『傑力珍怪映画祭』で『人喰山』を観直して、
「ああ、にいやさんはあの頃、遊びにも行かず長電話もせず、ずっと引き込もってこの絵を描いていたんだっけな……」
ということを思い出した。
にいやさんによると、この『人喰山』の絵(コンテ)は、パーツなどの絵も含めると300枚くらいあるそうだ。
300枚!考えただけで気が遠くなるような枚数だ。
にいやさんは半年もの間、毎日毎日一人机に向かってコツコツコツコツ描き続けてたのである。ハンパな根性じゃできないことである。
また、コンテを描きあげてからの作業には半年かかったということだ。
要するに、コンテを描き始めてから完成まで1年かかっているのであり、ということは、プロットやシナリオを書いたのは1年以上前、紙芝居アニメという手法で作品を作ろうと考えたのは、その更に前ということになる。
やはりアニメーションは、途方もない時間がかかるのだ。
しかしアニメーションを作っている人たちにとっては、それが当たり前なんだろうな。時間の捉え方が違うのだ。
そんなにいやさんを見ていると、なんだか命を削って作品を作っているように思えてならない。でもアニメーションに限らず、創作っていうのはそういうことなんだろうな。


にいやなおゆきの『人喰山』は、「傑・力・珍・怪映画祭」の一本としてアップリンクXで公開中です。
(9月4日(金)まで。20:40開映。併映作品は『大拳銃』(大畑創)、『魔眼』(伊藤淳)など)

詳しい情報は公式サイトを御覧下さい。


「傑・力・珍・怪映画祭」公式サイト
 http://ketsuriki.com/