「夏祭@映美」によせて(大工原正樹)


 「シネマGOラウンド」を初めて観たとき、ヘトヘトになった。上映時間はせいぜい2時間強。しかし、この2時間を体験するくらいなら、旅芸人の記録「1900年」を続けて観るほうがずっと楽だ。オムニバス映画という体裁で上映されることが多いらしいのだが、この4本はオムニバスの形式にはなっていない。真っ向勝負、全力投球の濃密な短編映画4本の競作、と謳った方が観る人に心構えが出来て親切だ。「夜の足跡」「寝耳に水」「月へ行く」の3本はじゅうぶん長編映画になりうるプロットを30分に凝縮しているため、また「桶屋」はプロットこそ短篇のものだが、主線から逸脱していくエピソードがどうまた主線に返ってくるのかというスリリングな語りをしているため、どの作品も一瞬たりとも画面から目を離せないし、観ながら考えることを休んだ瞬間に確実に置いてきぼりを食わされる。ひとつのテーマを真面目に語れば語るほどその過剰さと歪さが露わになるという、気が狂った、しかし、だからこそ映画作家としての正しい資質を備えた4人がやっていることをこれ以上一括りに出来るわけも無く、後は観て、それぞれの映画を十分に堪能してもらえばいいだけだ。


筒井武文氏による各作品の的確な解説*1や常本琢招*2和田光太郎*3の紹介文でこの4本の異様な面白さは十分伝わっていると思うのだが、あえて付け加えると、「夜の足跡」ではこの深刻なドラマに一気に解放をもたらすのが、役柄でいえばただの通りすがりの女子高生であるという、その呆れるほどの冷徹さを、「寝耳に水」では(日本語で)インテリの男二人が語りあうシーンの呼吸、その官能性を演出することにおいて、今まで日本映画が成しえなかった高度な達成がなされていることを、「桶屋」では映画がトーキーになってから失った喜劇の編集の厳密さを取り戻さんと、サイレントさながらのミディアムショット・固定画面の連鎖で完璧な「間」を示しながら、その上でセリフと音の洪水をいかなるテクニックで処理しているのか、その志の高さを、「月へ行く」ではドロドロとした、人間にしかありえない関係を描きながら全くそうは見えず、登場人物全員が動物のように生息している異世界の楽しさを、注目して観てほしい。


しかし、今回「オトコとオンナの映画秘湯」上映会「夏祭@映美」で上映されるのはこの4本だけではないという。『シアワセ☆ララバイ』『citylights』『もの凄いキック』『巣』という映画美学校修了生の傑作選が加わり、どんな目くるめく体験が待っているのか、「オトコとオンナ映画秘湯」氏によるプログラミングの妙も含めて、ぜひ楽しんでほしい。