李鐘浩(内村)

 この作品の台本を頂く前に、赤猫という単語を辞書で調べてみた。が、どこにも載っていなかった。広辞苑ならと思い、仕事の帰りに駅前の書店に立ち寄り分厚い冊子を開いた。やっぱり載っていない。で、「猫」で検索してみると案の定載ってはいなかったのだがあることに気づいた。
 猫に鰹節、猫の額、猫も杓子も、猫を被る……。猫にまつわる諺だ。それぞれの意味を改めて読むと、どれもあまりいい印象を与える言葉ではない。あんなにも愛らしい動物が、ペットの代表的な猫が、軽蔑めいた意味合いで使われている。犬よりも猫派の私は肩を落としながら家で待っているちくわぶ(私の猫の愛称)の元へと帰った。
 台本を読み終えて、赤猫の意味を知った。そして、赤猫に題した意味合いも。猫というのは何故こんなにも怪しげな(妖し、奇し、異し)意味合いで日常的に使われるのだろうかと、ふと疑問を抱いたのと同時に、近い将来、広辞苑や国語辞書に「赤猫」の意味がきっと掲載されるだろうと思った。赤猫――放火を快楽として行う妖しい女性のさま、と。またひとつ猫の悪いイメージが……。


李 鐘浩(り かねひろ)1970.9.10生まれ。夢工房所属。富良野塾出身。主な出演作に、神山征二郎『三たびの海峡』(95)、北野武キッズ・リターン』(96)、黒沢清『復讐 消えない傷痕』(97)、中田秀夫『リング』(98)、清水浩『チキン・ハート』(02)、原田眞人『突入せよ あさま山荘事件』(02)などがある。
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