自作解説『恋愛ピアノ教師 月光の戯れ』(常本琢招)

 どうも、常本です。好きなグラビアアイドルはリア・ディゾン!!
『恋愛ピアノ教師』は、TMCという製作会社で、『秘蜜 教えてあげる』『新任女医 淫らな診察室』『恋愛家庭教師』に続いて撮った4本目の作品です。


TMCは、エロチックVオリの老舗といわれるメーカーですが、国映を「おねえ」一人が支えているように、まるで歌舞伎役者みたいな立派な顔をした社長の個性が支配している会社だったように記憶しています。
社長が作品を気に入り、OKの判を押した監督は次も作品が撮れ、NGを出すと次はない・・・という、まるで大昔、ハリウッドのタイクーン(大物)が支配していたスタジオシステムがそのまま生き残っているような製作基準で、それはそれで分かりやすいものでした。社長自身については、穏やかな人柄で、僕は好きでした。
TMCで1本目に撮った『秘蜜』が社長に大好評だったので、結局4本撮らせてもらったのですが、『ピアノ教師』より前の三本の出来には、正直煮え切らないものを感じていました。社長のワンマンに近い体制ということは、やはり社長の好む“色”が作品に反映してくる側面があるということで、その色が、こちらが本当に作りたいものとは違うことが往々にしてあったのです。


『恋愛ピアノ教師』について語る前に、TMCで撮った三本について、ざっと振り返っておくと・・・
1本目の『秘蜜』が社長に好かれたのは当たり前。まさしく社長のリクエストどおりの作品になったからです。そのリクエストとは、「少年と年上の女の濃密な関係を」という大きな注文から「川で、少年と少女が水遊びをしていると、少女の白いシャツが水に濡れ、透けた胸元を少年に開いて見せて」ナドの細かいディテールまで・・・
とにかく定番を定番どおりに作ってほしいということで、あまりの要求のベタさに、定番に開き直るか定番を回避する天才的な方法を見つけるか悩みました。唯一の突破口は、『あいつ』という映画のシナリオの“前説”を読んで感心し、以前から組んでみたかった脚本家の藤田一朗氏がホンを引き受けてくれたことでしたが、やはり、出来上がった作品は、自分らしいものにはなりませんでした。


それからTMCで撮ったVオリは、すべて藤田氏が脚本を書いてくれています。2本目の『新任女医』は、「女医もの」というお題で作った作品。藤田氏が、「サイコラマ」という、お芝居を通して精神分析を行う珍しいネタを入れてくれたり、長宗我部容子(当時:長曽我部蓉子)がヒロインを演じてくれたりと、それなりに乗れる要素はあったのですが、終わってみると藤田氏のホンに引きずられすぎているように思えます。
3本目の『恋愛家庭教師』は読んで字のごとく、「家庭教師もの」。この手の題材だと、普通なら生徒の家がメイン舞台となるでしょうが、そのパターンを女家庭教師と生徒の駆け落ちから始める、という趣向にして回避し、逃げてきた海辺の町で家庭教師が過去と向き合う、という話にしました。しかし、結果は・・・あにはからんや再びベタの、それもベタベタの世界に舞い戻ってしまい、それをテクニックで何とか見せようとしてテクだけが浮き上がり、僕の作品の中でも最低レベルのものになりました。


というわけで、捲土重来を期したい4本目。今回、会社から回って来たお題は、「ピアノ教師」。実は今回の脚本に関しては、はじめから藤田さんに頼んだわけではなく、井川耕一郎の美学校での教え子であるIくんにまず頼んだのですが、Iくんが書いたプロットにはTMC側がどうしても乗らず、藤田氏の再登板となりました。


藤田一朗さんと僕は、不思議な関係です。TMC以外でも、没になった企画でエロチックVオリのシナリオを何本か書いてもらっているのですが、ポシャったホンのほうが、文句無く「面白い」と言える内容だったのです。
日本にカリギュラの子孫がいる、という企画を、カリギュラの霊が乗り移ったマスクを気の弱いサラリーマンが手に入れて大変身・・・とジム・キャリーの『マスク』張りのストーリーにアレンジし、ラストは増村版『好色一代男』を思わせる無常観を漂わせた縦横無尽のシナリオとか、フェリーニの『道』のように人を疑うことを知らない、見方によってはセイハク?という銀行員のヒロインが、銀行を襲った強盗に一目惚れ、強盗にくっついてなぜかサーカスに入団、ナイフ投げの男に惚れられ、強盗と三角関係になる・・・という先の読めないストーリーのシナリオ。


それに比べ、TMCで書いてもらったホンはイマイチ藤田さんの良さが出ていないように思われ、悔しい思いをしていました。
今度こそは、という思いで作った4本目のストーリーは、なぜか二重人格モノ。
ピアノ弾きとして優れた腕を持っていながら、引きこもりになっている少年が、奔放な女性ピアノ教師と知り合い、愛欲の恋に落ちる。ピアノ教師には、対照的な性格の穏やかな姉がいて、姉と妹の間には、かつて、一人の男をめぐりある葛藤があった・・・というストーリーで、実は二人の女性は同一人物だったという展開になるのです。
(ネタバレを避けるため、分かりにくい説明でスミマセン。まだこのVオリ、レンタルショップに置いてあるところもありますので、実際にご確認いただければと存じます)
なぜ二重人格だったのかは、正直言って覚えていません。多分藤田さんが思いつき、監督の自分は「二役だと女優に対してそれだけ演出し甲斐があるだろう」くらいの始まりだったと思います。
この二重人格という設定について、ドラマ的にどういう決着をつけるかが、最も悩んだ点でした。何度も喫茶店に集合し、結末について悩みましたが・・・ある日、藤田さんが着地の仕方について、天才的なアイデアを思いついてくれたのです。それは今まで多重人格を扱った他の映画では見たことの無い斬新なアイデアで、興奮しました。ひさびさに、藤田さんが持てる力を十全に発揮してくれたシナリオが作れた、と思いましたし、そんな納得の藤田シナリオを始めて映像化できる、と嬉しかったのを憶えています。
それから、一気にシナリオは完成しました。


 満足いくシナリオが出来上がったら、次はキャスティングです。ヒロインは、前述したように、一人二役という高度な演技力を要求される役。しかし、その頃すでに斜陽となっていたエロチックVオリの世界でそれだけの演技をこなせる女優を・・・と探すと、すでにお馴染みとなっているスタークラスの古株(失礼!)の面々、ということになってしまいます。
 しかし、TMCのVオリは“初脱ぎ”というのが売りでしたし、自分としても、あまり露出が多くない、フレッシュな女性で、なおかつ演技力もある人を探したい。加えて、ピアノ教師役ということで、ピアノの演奏シーンが必須ですが、これを吹き替えではなく自分で弾いて欲しい・・・とのこだわりがありました。
 当然のごとく、キャスティングは難航しました。その頃すでに監督になっていながら、僕の要請でチーフを務めてくれた山岡隆資くんは「まあ、何とかなるんじゃないスかねーー」と、どっしり構えてニヤニヤしていましたが。

 
面接を重ね、納得できる女優に会えずメゲていた頃、面接にやってきたのが麻田真夕です。
 実は、麻田真夕を最初気に入ったのは、僕ではなく志賀葉一カメラマンでした。宣材写真の中から目ざとく見つけ出し、「いいよー、この子、いいよー」と、会う前からノッていたのです。では会ってみるかと制作会社に呼んだ麻田真夕は、大胆なヘソ出しルック、なぜか自信満々な感じで、初対面で「自分以外にこの役を演じられる女優はいない」と言い放つのです。どんな大物なんだ、そこまで言うならやってもらおうとヒロインに決めましたが、なるほど芝居がうまい。リハの段階で、すでに二役の違いがうまく出せているので、どう演じ分けているのか聞いたら、「それぞれの役で、呼吸の仕方から変えている」との答えが返ってきたのには、感心しました。それまでVオリに出たのは2・3本程度と聞いていましたが、「月蝕歌劇団」でずっと芝居をしていたということで、芝居のカンが確かなのでしょう。
また、僕自身の好みとして、巫女的な体質というか、役にのめりこんでしまう憑依型の女優が好きな傾向にありますが、麻田真夕はまさにこのタイプでした。撮影のラストは、二重人格の2人が対話する、というシーンを切り返しで撮ったのですが、そのシーンが終わり、撮影がアップすると、撮影していた1階から2階へ上がる途中の廊下でぶるぶる震え出し、酸欠状態になって人事不省になったのです。幸い大事には至りませんでしたが、どうやら、自分の中で二つの人格を衝突させた結果、撮影が終わっても気持ちの収拾がつかなくなったようなのでした。
もちろん、ピアノの練習も熱心に取り組み、作中で演奏するベートーベンの『月光』は吹き替えなしの彼女の自演。
加えて、カラミのシーンでもいやらしい存在感が出せるということで、「この子、このあとピンクに行くんだろうなあ・・・」と予感していたらその通り。ピンク映画界で、意欲的な監督の間で引っ張りだこになっているようです。


少年役を演じてくれたのは、そのピンク映画界で活躍していた、佐藤幹雄。『恋愛家庭教師』に続く、2本目の出演です。田尻裕司監督『OLのラブジュース・愛汁』という傑作で知りました。
幹雄は、いまどきの若い兄ちゃんなのですが、性格が良いことが気に入っています。加えて、演技について、僕の手に余るところが、新鮮でした。どういうことかというと、僕はそれまで、リハーサルをして演技を練り上げていく、という作業を行ってきたのですが、幹雄にはリハーサルが通用しません。リハをして、演技がよくなるどころか、次第にダレてきて芝居が良く無くなってくるのです。「これからの俳優はこうなのか。今までやってきた俺のやり方は通じないのか・・・」と思いましたね。そのあと作品をあまり撮っていないので、その確認はできてませんが。


その他には、僕の作品でお馴染みの面々、奈良坂篤、現場にいるだけで僕の気持ちが安らぐ今泉浩一、今まで一度も私語を交わしたことが無い森羅万象、といった方々に出演してもらいました。


撮影中の出来事に関しては、この作品、不思議なほど思い出がありません。撮影期間が今まで6日だったのが、この作品では5日になり、大丈夫かと不安だったのは覚えていますが、そのほかは不思議と記憶に無いのです。自分にとって、撮影中なにかとても嫌なことがあって、忘れようと心的抑圧がかかっているのか??この作品について疑問・質問がある方は、直接僕に聞いてください。


それより憶えているのは、撮影初日、集合場所に向かおうと早朝の都営新宿線に乗っていたときのこと。途中の駅で偶然、知ってる顔が乗り込んできたのです。誰かと思ったら、僕が知っている範囲で最も映画を観ている男、最も映画を愛している男、あまりにも映画に近すぎてもはや人間ではなく映画の神様と化していると尊敬してやまない、助監督の広瀬寛巳氏。
「やあ〜〜ど〜〜も〜〜!!撮影ですかあ〜〜!!」と早朝からハイテンションで話しかけてくる、浅草東宝のオールナイト帰りの広瀬氏の顔を見ながら、ああ、映画の神様が来てくれた、今回は成功するかも・・・と、ぼんやり思ったのでした。


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