『直したはず、なんだけどなあ』3(『水の睡り』(栩兼拓磨)について)

<『水の睡り』あらすじ>
それまで暮らした家からアパートに引っ越した義男は、音信不通だった姉、陽子と再会し、共に暮らし始める。穏やかな生活が始まるかに見えたが、義男は悪夢に襲われるようになり、二人は過去の記憶が眠る、川の上流へと向かう。


大工原:で、『水の睡り』だが・・・これも必要なものは散りばめられていたんだよ。でもなあ・・・栩兼くんは自分の選んだテーマが分かってないんじゃないかな?(笑)
―――インタヴュー用の資料として、大工原さんに初等科時代のシナリオ講評を送ってもらったのですが、読み直してみると栩兼さんへのコメントは完成した作品にも妥当するんですよね。「栩兼くんが義男の近親相姦願望の鏡像として鶴田兄妹を登場させているのは明らかなのだから、書くべき事はもうはっきりしているでしょう」とか。
大工原:そうなんだよな(笑)。「義男が鶴田兄妹の近親相姦を前から知っていたのか、最近知ったのか、いずれにしても決定的な場面を目撃させなければいけないのではないだろうか」。そうだよ、決定的な場面が目撃されていないんだよ(笑)。
―――鶴田兄が刺されたという「事件」も、同僚からの伝聞の形で知るわけですしね。
大工原:しかも、あれは刺したのが妹の彼氏だろ。全然決定的じゃないよな。
―――あと、陽子の「それなりの覚悟をして帰ってきたんですけど」という台詞も、姉弟のただならぬ関係の暗示には聞こえませんね。狙いなのかもしれませんけど。
大工原:唐突に聞こえるよな。まあ、チラシの写真にも使われている、ボートの上で姉弟が寄り添って寝ている映像がインサートされたりして、匂わせてはいるんだけど・・・弱い。姉弟の距離が見えないんだな。だから、唐突なんだ。あと、義男・陽子と鶴田兄妹が揃うシーンで、風呂上がりの陽子を見た鶴田兄が本人の前で「陽子さん見つかったんだ」と言うだろ、あれもおかしいよな。笑ってしまうというか(笑)。
―――鏡像関係が浮かんでこない。
大工原:栩兼くんのシナリオ検討会には井川さんが参加していたけど、だいぶ難航していたな。結局、初稿に戻れってことになったみたいだけど・・・講師が初稿に戻れというのは、要するに題材をチェックしろってことなんだよ。
―――選考の基準となる、シナリオに散りばめられたこと、ですね。
大工原:そう、そこからシナリオを直していけということだよ。栩兼くんはどうも、細部を膨らますことに一所懸命でね。細部というよりもスタイルだな。だから、風景や室内の映像はスチール写真のように綺麗ではある。ただ、風景ということなら、姉弟がゴムボートに乗るシーンなんかでも、芝居と絡めて空間を上手く見せることが出来ていないよね。
―――役者さんについてはいかがですか。
大工原:陽子役の藤崎さんは以前僕の映画にも出てくれたから、芝居に熱心に取り組む人であることは知っているんだけれど、どうも感情が見えてこない。義男役の役者さんもあまり印象に残らない。
―――佐藤さんは過去の1st CUT作品に出演されていますよね。
大工原:そうだっけ?
―――村山圭吾監督『モリムラ』の弟役です。
大工原:ああ、あれはすごく印象に残ってる。てことは・・・栩兼が悪いんだな(笑)。むしろ、栩兼くん本人が演じた方がよかったかもな。
―――弟役ですか?どんな姉弟ですか(笑)。
大工原:いや、いいキャラしてんだよ、あいつ本人が。いいじゃない、明らかに姉より老けている弟で(笑)。そこいくと、『底無』の主役の男の人は良かったね。シナリオをちゃんと理解して演技されていると思う。