批評

井川耕一郎論・試論〜上映予定の三作品について〜(佐野真規)

まず、これは自分の思い込みかもしれないと断っておく。そうして、以下に取り上げる事柄については諸兄が既に指摘されて議論をなされた、既に自明の事柄であろうことも想像に難くない。が、愚弟としてようやく今日、井川耕一郎の監督作品を見たぼくが、以下…

『明治侠客伝 三代目襲名』2(三島裕二)

さて次に藤純子の行動のあり方について見てみよう。映画の中で藤純子は娼妓として登場する。彼女は星野と共に木屋辰組を陥れようと画策する唐沢という男に気に入られて身請けされようとしているのだが、劇中に何度か登場する「売りもん、買いもん」とう台詞…

『明治侠客伝 三代目襲名』1(三島裕二)

この映画のラスト、鶴田浩二は組の敵である星野組の元に単身乗り込む。星野組に入るなり、鶴田は星野を日本刀で一突きにする。近くにいた唐沢(鶴田にとっては恋敵である)が身の危険を感じて逃げ出す。必死の形相で逃げる唐沢が、後ろを振り返るとそこには…

黒沢清監督『LOFT』を鑑賞して(mk)

まず物語のあらすじを簡単に示しておく。スランプに陥った女性作家・春名(中谷美紀)が田舎に引っ越しをしたところ、今やほとんど人の出入りがない大学の研修施設で、1000年前の女性ミイラを極秘保存していた教授・吉岡(豊川悦司)と知り合うことにな…

大和屋竺『荒野のダッチワイフ』論(小出豊)

井川さん こんにちは。 唐突ですが、 『荒野のダッチワイフ』の主人公の殺し屋は、目が見えないのではないではないでしょうか? 彼は、雇い主から女性が陵辱されているフィルムを見せられ、「さっぱり見えねえな」と云っています。また、直後に「ひでえ雨降…

『引き裂かれたブルーフィルム』(監督・梅沢薫、脚本・大和屋竺)について(井川耕一郎)

『引き裂かれたブルーフィルム』を見終えたばかりの今、あなたの中に強く焼きついているイメージは何だろうか。たぶん、二つのイメージがあるはずだ。一つは、ラストのスクリーンをはさんでの銃撃戦。そして、もう一つは、女をくくりつけて闇の中を飛ぶ巨大…

大和屋竺『裏切りの季節』論(非和解検査)

「どこまでこけおどしの芝居をやりやがるんだ」「そこはもう、完全な復讐劇のための舞台裏になっていた」「芝居は終わりだ」・・・『裏切りの季節』には演劇、演じることに関する台詞が散見される。こうした台詞は、その他の大和屋関連の作品―――例えば、今回…

グロヅカ&INAZUMAレポート(飯田佳秀)

ある日、講師である井川さんから突然メールが来た。内容は西山洋市氏の劇場新作である「グロヅカ」に、希望者の中から抽選二名限定で無料招待してくれるというものだった。僕は当然、「行きたい!」と思った。しかし、その招待には条件があったのだ。映画を…

無限の痛みのような―『団鬼六 花嫁人形』について―(井川耕一郎)

(以下の文章は、「映画芸術」2001年春号(特集・日活ロマンポルノ30年の興亡)に掲載されたものです。ちなみに、阿部嘉昭さんの評論集『日本映画の21世紀がはじまる』を開くと、『シネマGOラウンド』の一篇『寝耳に水』の批評「重複・ズレ・残映」が載っ…

『おんなの細道 濡れた海峡』を読む5(井川耕一郎)

シーン28でボクとカヤ子は寝てしまうのですが、翌日も二人はずるずると旅館の部屋にこもったままです。そうして夜が来て、二人は出前のうどんを食べながら話をします。 34 旅館の一室(夜) 薄暗い灯の下でボクとカヤ子、出前のうどんを啜る。 ボク「ポロ…

『おんなの細道 濡れた海峡』を読む4(井川耕一郎)

赤ちょうちんで島子の抜けた歯を飲みこんでしまったボクは、翌日、海に面した断崖でカヤ子と並んで用をたします。カヤ子はヒラさんの漁船が着く△△港まで行くと言う。行くあてのないボクはカヤ子と一緒にその港町まで行き、ホルモン焼屋に入るのですが、そこ…

『おんなの細道 濡れた海峡』を読む3(井川耕一郎)

社長の子分・松夫たちに襲われかけたボクは、島子を見捨ててバスに飛び乗ります。そのバスの中でボクは尻が痛くなる。 (10 バスの中) ボク「痛テ……」 ボク、尻ポケットを探って、何かつまみだす。島子の抜けた奥歯である。 ボク「……痛えじゃねえか」 ボ…

『おんなの細道 濡れた海峡』を読む2(井川耕一郎)

『おんなの細道 濡れた海峡』は、ボクと島子が汽車に乗っているところから始まります。これから島子の旦那、社長のところに行こうとしているのですが、島子は「どうすんのよ」とボクに尋ねる。そうして「あんた殺されるかもしれないよ」とボクに言うわけです…

『おんなの細道 濡れた海峡』を読む1(井川耕一郎)

(以下の文章は、今年の5月に映画美学校の授業で話したことをメモをもとに再現したもの。週一のペースで四回くらい連載する予定です。なお、テキストには「月刊シナリオ」1980年5月号に掲載されたシナリオを使っています) 『おんなの細道 濡れた海峡』(…