日録1980年7月21日(渡辺護)

(このエッセイは、「日本読書新聞」1980年7月21日に掲載されたものです) ×月×日 撮影最終日。言問橋から吾妻橋付近で痴漢公園のシーンだ。午後一時三〇分、体があいたのでなつかしい喫茶店に入る。すると、思い出が記憶の底からせきを切って流れ出す。ま…

日録1980年7月14日(渡辺護)

(このエッセイは、「日本読書新聞」1980年7月14日に掲載されたものです) ×月×日 新東宝のお盆映画『日本の痴漢』の撮影にインする。毎度のことであるが、新宿安田生命前七時半集合はキツイ。五日間と言う短期間で撮りあげなくてはならないのは、いつおな…

『男ごろし 極悪弁天』から『おんな地獄唄 尺八弁天』へ(2)(井川耕一郎)

渡辺護さんの話では、観客の反応を見ようと、『極悪弁天』を上映する映画館に行ったところ、向井寛と、当時、助監督だった稲尾実(深町章)がいたという。 向井寛は映画の出来に感心したらしい。稲尾実も『極悪弁天』に感動し(劇場内で拍手した)、その後、…

『男ごろし 極悪弁天』から『おんな地獄唄 尺八弁天』へ(1)(井川耕一郎)

神戸映画資料館で『おんな地獄唄 尺八弁天』(70)が上映されるとのこと(2月10日16:05〜、11日15:50〜)。 ちょうどいい機会だから、ドキュメンタリー制作の過程で『尺八弁天』について分かったことを書いておこうと思う。 『おんな地獄唄 尺八弁天』に…

渡辺護、『おんな地獄唄 尺八弁天』について語る(聞書:井川耕一郎)

(このインタビューは、『ジライヤ別冊 大和屋竺』(1995)に載った「『おんな地獄唄 尺八弁天』を撮り終えたくなかった」からの抜粋です) 『おんな地獄唄 尺八弁天』は、石森史郎のホンで撮った『男ごろし 極悪弁天』の続編でね。『極悪弁天』は弁天の加代…

同期のピンク桜―追悼 野上正義―(渡辺護)

(この追悼文は『映画芸術』2011年春号に載ったものです) 荒木太郎からの電話でガミの死を知る。 野上正義のことは、ガミ、ガミちゃん、と呼んでいた。 ガミは若松孝二の『鉛の墓標』でピンク初主演、同じ頃、俺も『あばずれ』で初監督。ガミと俺は同期のピ…

何が難しいことだって ピンク監督の弁(渡辺護)

(このエッセイは、『映画芸術』1970年11月号に載ったものです) 男のオチンチンを立たせっぱなしにすることは、難しいことだ。社会の風俗現象の変化とともに、そのオチンチンの立ち具合も変化するものであって、やたら、脱がせ、やたら、アソコを見せりゃい…

渡辺護、2012年の日本映画をふりかえる

映画の話をすると、「監督、そんなのまで見てるんですか?」と言われるけど、そうじゃないと、娯楽映画の監督はできないんだよ。 『ヘルタースケルター』(監督:蜷川実花)、見に行ったよ。監督が蜷川幸雄の娘だろ。おれがテレビ役者でいい役やってた頃、蜷…

渡辺護、監督第二作『紅壺』について語る

(以下の文章は、mixiに書いた「渡辺護自伝的ドキュメンタリー制作日記」からの転載です(2012年8月21日)) 第三部以後の準備作業として、渡辺さんの初期作品についての話をこれから数回に分けて載せることにする。 今回は、2作目の『紅壷』。 『紅壷』の…

渡辺護『紅壺』について(井川耕一郎)

(以下の文章は、mixiに書いた「渡辺護自伝的ドキュメンタリー制作日記」からの転載です(2012年09月14日)) 『紅壷』(65)は渡辺護の監督第二作で、現在残っている作品の中では一番古いものである(フィルムはぴんくりんくの太田さんが所有)。 渡辺さん…

渡辺護、向井寛の初期作品について語る

(以下の文章は、mixiの「渡辺護自伝的ドキュメンタリー制作日記」からの転載です(2012年8月3日)) 現在、第二部『つわものどもが遊びのあと ―渡辺護が語るピンク映画史―』の編集中なのだけれども、 カットしたインタビュー部分をこの製作日記に載せてお…

向井寛『肉』について(井川耕一郎)

(以下の文章は、mixiの「渡辺護自伝的ドキュメンタリー制作日記」からの転載です(2012年08月20日)) 8月17日(金)に銀座シネパトスで、向井寛の監督デビュー作『肉』(65)を見たので、そのことについて記しておこう。 一度見ただけだから、批評にはな…

『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』、ちば映画祭で上映(1月27日(日)16:10〜・千葉市民会館 小ホール)

木更津とその周辺で撮影した『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』が、ちば映画祭で上映されます。 ちば映画祭VOL.5 1月27日(日)16:10〜 『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』(2010年・49分・監督:大工原正樹) 同時上映:『純情NO.1』(2011年・20分…

『つわものどもが遊びのあと 渡辺護が語るピンク映画史』について(井川耕一郎)

『つわものどもが遊びのあと 渡辺護が語るピンク映画史』 (2012年・138分)出演・語り:渡辺護 製作:渡辺護、北岡稔美 撮影:松本岳大、井川耕一郎 録音;光地拓郎 編集:北岡稔美 構成補:矢部真弓、高橋淳 構成:井川耕一郎 協力:渡辺典子、新東宝映画…

『糸の切れた凧 渡辺護が語る渡辺護』について(井川耕一郎)

『糸の切れた凧 渡辺護が語る渡辺護』 (2011年・122分)出演・語り:渡辺護 製作:渡辺護、北岡稔美 撮影:松本岳大、井川耕一郎 録音;光地拓郎 編集:北岡稔美 構成補:矢部真弓、高橋淳 構成:井川耕一郎 協力:渡辺典子、太田耕耘キ(ぴんくりんく編集…

『糸の切れた凧 渡辺護が語る渡辺護』、『つわものどもが遊びのあと 渡辺護が語るピンク映画史』上映(12月22日(土)18:00〜・映画美学校試写室)

渡辺護自伝的ドキュメンタリープロジェクト(全10部・8時間の予定)の第一部と第二部が、映画美学校映画祭の前夜祭で上映されます(12月22日(土)18時から・映画美学校試写室)。 12月22日(土) 18:00〜 第一部『糸の切れた凧 渡辺護が語る渡辺護』(2011…

小出豊くんのこと(井川耕一郎)

(以下の文章は、「CO2映画上映展 第5回 フィルム・エキシビション in OSAKA」のパンフレットに掲載されたものです) 四年前、シネマアートン下北沢という映画館が大和屋竺特集を企画したときのこと。大和屋に関する小冊子の作成を依頼された私は、若い人た…

転形期のインディペンデント映画 第1回 万田邦敏・小出豊作品集(6月29日(金)〜7月2日(月)@神戸映画資料館)

転形期のインディペンデント映画 第1回 万田邦敏・小出豊作品集 6月29日(金)〜7月2日(月)@神戸映画資料館 映画制作と上映のデジタルへの移行、そして見る環境の多様化により、いよいよ“映画”の転形期を実感する今日。とりわけインディペンデント映画の…

『INAZUMA稲妻』以後(西山洋市)

プロジェクトINAZUMAで『INAZUMA稲妻』が上映されてから何年たったでしょうか? 光陰矢のごとし、稲妻のごとし。 あのとき、下北沢で『INAZUMA稲妻』を見てくださった皆様、お久しぶりです。 『INAZUMA稲妻』の後、ぼくは『死なば諸共』、『スパイ昇天』『吸…

映芸シネマテークvol.12で大工原正樹『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』、井川耕一郎『西みがき』などを上映(3月9日(金)19時〜・人形町三日月座B1F/Base KOM)

「映画芸術」、「coffee & pictures人形町三日月座」主催の映芸シネマテークで、大工原正樹『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』、井川耕一郎『西みがき』『玄関の女』が上映されます。 「映芸シネマテーク」vol.12(3月9日(金))のお知らせ 大工原正樹…

金子サトシ『食卓の肖像』について(井川耕一郎)

(以下の文章は、『映画芸術』2011年冬号(第434号)からの再録です) 金子サトシ『食卓の肖像』10点 去年はずっと前から見たかった深尾道典の『女医の愛欲日記』とロバート・アルトマンの『バード・シット』が見られた年だった(どちらも素晴らしい作品だっ…

金子サトシのカネミ油症ドキュメンタリー『食卓の肖像』東京上映会のお知らせ(2月19日(日)14:00〜、3月24日(土)18:00〜・「かふぇ&ほーる with遊」(荻窪駅南口徒歩8分))

金子サトシの『食卓の肖像』が、キネマ旬報文化映画ベストテンの第10位に選ばれたことを記念して上映会が開かれるそうです。 『食卓の肖像』 (DV作品、103分) 取材・構成:金子サトシ 撮影:内野敏郎 金子サトシ 福本淳 スーパーバイザー:土屋豊 Our…

筒井武文『孤独な惑星』について(井川耕一郎)

『孤独な惑星』を見たあと、まず思うのは真理を演じた竹厚綾の魅力は背の高さだな、ということです。おそらく、監督の筒井武文が彼女を主演に選んだ一番の理由もそうだったのではないでしょうか。 「まだおれのことが好きなんじゃないの?」と真理に言い寄っ…

『赤猫』をふりかえって(井川耕一郎)

大工原正樹の『赤猫』は、『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』の併映作品として、10月4日(火)に上映されます(オーディトリウム渋谷、21時10分〜)。 (『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』について書いたときと同じように、とりとめない雑感になって…

『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』+プロジェクトDENGEKI(オーディトリウム渋谷、9/24〜10/8(9/28休映)、連日21時10分〜)関連の更新情報

『赤猫』をふりかえって(井川耕一郎) new! 『赤猫』についてもっと詳しく new! 『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』を見て思ったこと・第3回(井川耕一郎) 『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』を見て思ったこと・第2回(井川耕一郎) 『姉ちゃん、…

『赤猫』についてもっと詳しく

大工原正樹の『赤猫』は、『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』の併映作品として、9月27日(火)、10月4日(火)に上映されます(オーディトリウム渋谷、21時10分〜)。 このブログに掲載されている『赤猫』に関するコメント、批評は以下のとおりです。 …

『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』を見て思ったこと・第3回(井川耕一郎)

今年の三月にアテネフランセ文化センターで大工原正樹特集があったとき、チラシには次のような『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』の紹介が載った。 子供の頃に義父から受けた虐待の記憶に苛まれる姉弟が、母の死を機に故郷の港町を久方振りに訪れる。彼ら…

『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』を見て思ったこと・第2回(井川耕一郎)

岡部尚演じる弟がかかえている骨壷から、長宗我部陽子演じる姉が遺灰をつかむと、それをトンネルめがけてまく……。 完成した『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』を初めて見たときに一番ひっかかったのは、シナリオにはないこの冒頭だった。シナリオを書いた…

『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』+プロジェクトDENGEKIイベントスケジュール

9月25(日) 舞台挨拶:久保紫苑 川口陽一 トークゲスト:古澤健(映画監督)、内藤瑛亮(『先生を流産させる会』監督・『お姉ちゃん、だいきらい』主演) 26(月) 舞台挨拶:宮田亜紀 トークゲスト:塩田明彦(映画監督)、井川耕一郎(映画監督・脚本家・『ホ…

『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』を見て思ったこと・第1回(井川耕一郎)

『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』については前に書いたことがある(注)。しかし、あのときはまだ完成作品を見ていなかった。そこで、今回は映画を見たあとに思ったことを記そうと思う。といっても、とりとめのない雑感になってしまいそうだけれども。 …