井川耕一郎
岡部尚演じる弟がかかえている骨壷から、長宗我部陽子演じる姉が遺灰をつかむと、それをトンネルめがけてまく……。 完成した『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』を初めて見たときに一番ひっかかったのは、シナリオにはないこの冒頭だった。シナリオを書いた…
『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』については前に書いたことがある(注)。しかし、あのときはまだ完成作品を見ていなかった。そこで、今回は映画を見たあとに思ったことを記そうと思う。といっても、とりとめのない雑感になってしまいそうだけれども。 …
『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱(こ)を使う』 2010年/HD/51分 監督:大工原正樹 脚本:井川耕一郎 撮影・照明:志賀葉一 録音:臼井勝 出演:長宗我部陽子・岡部尚・森田亜紀・高橋洋 蠱(こ)とは古代中国の呪術である。 母の葬式を終え、かつて暮らした町…
撮影の日が迫っているとかで、大急ぎで書くように求められた作品である。 大工原正樹からのお題は、「長宗我部陽子、岡部尚、木更津、憎しみ」というものだった。 長宗我部さんのことなら、もちろん知っている。自作の『寝耳に水』に出てもらっている。 岡部…
9.補足(いくつかの注意)・『演出実習2007』と『演出実習2008』を見て、同じシナリオでも監督がちがうと、こうも芝居がちがってくるものなのか、と思うひとがいるかもしれない。だが、その感想には間違いが含まれている。 ・第一の間違いは、芝居を監督の…
8.「リハーサル篇」(井川耕一郎の授業)について 「リハーサル篇」はなかなかつくる気にならなかった。というのも、分析の対象が私の授業だったからだ。自宅で素材となる記録映像を見ようとするのだが、一、二分見たところでビデオを止めてしまうというこ…
7.「ホン読み篇」(西山洋市の授業)について 西山さんが演出実習の授業で行ったのは、ホン読みとリハーサルだった。 ただ、リハーサルは西山さんが初等科生の前で演出してみせるという感じではなく、さまざまな設定を考えて生徒と一緒に芝居を模索してみ…
6.『撮影現場・段取り篇』(万田邦敏の授業)について 万田さんは演出実習の授業で、リハーサルを行ってから、実際に撮影をしている。 そこで、私たちはリハーサル部分を45分にまとめ、インタビューのあとに完成作品をつけるという構成を考えた。だが、万…
以下の文章は、『映画芸術』「2008日本映画ベストテン&ワーストテン」号に書いたものの再録です。 にいやなおゆき『灰土警部の事件簿 人喰山』10点 渡辺護『喪服の未亡人 ほしいの…』10点 渡辺護の『喪服の未亡人 ほしいの…』は、ピンク映画の枠で何かを表…
4.『演出実習2007』 『演出実習2007』の製作は、研究科のゼミで、授業を記録したビデオを分析するところから始まった。 どういう形にまとめるかを考えるときに参考になったのは、小出豊くん(3期初等科・6期高等科)がつくった『演出実習200…
3.10期初等科演出実習の記録ビデオを見る 2007年1月に行われた10期初等科の演出実習を記録したビデオは、映画美学校生なら自由に見ることができるようになっていた。けれども、全部見た生徒はあまりいないのではないではないだろうか。 なにしろ、どのク…
1.演出を学ぶ授業が必要 自分が書いたシナリオを撮ってきているのに、設定やあらすじを説明しているだけの味気ないものになってしまう。面白いシナリオを書いたとしても、自分が書いたドラマの面白さをまるで理解していないかのようなトンチンカンな映画を…
井川耕一郎が86年に撮った自主映画『ついのすみか』が、「日本インディペンデント映画史シリーズ2 ぴあフィルムフェスティバルの軌跡vol.2」の1本として、7月15日(水)18時からフィルムセンター小ホールで上映されます(併映は永森裕二の『はばかりあん…
『映画芸術』公式サイトに、昨年11月に行われた映芸シネマテークでの渡辺護と井川耕一郎のトークショーが採録されました(司会・構成:平澤竹織)。 映芸シネマテークVOL1『喪服の未亡人 ほしいの…』・渡辺護×井川耕一郎トークショー http://eigageijutsu.co…
矢部真弓さんの『月夜のバニー』は、歯みがきをしている美幸(藤田恵里沙)の姿が洗面所の鏡に映っているところから始まりますね。 そして、何者かが現れて、美幸の背後に立つのだけれども、 鏡に映るその人物の顔というか、頭部を見て、あっ!と声をあげそ…
長島良江様 『桃まつりpresents Kiss!』のDVDを受け取ったのが、たしか一ヶ月ほど前。 そのときに、感想を書きますよ、と約束したのに、今日までずるずると書かなかったのは、 用事がいくつかかさなってしまったということもありますが、 結局のところ、…
『岡山の娘』には、2007年6月に岡山で行われた詩の朗読会のドキュメンタリー映像が入っている。 その朗読会で、みづき役の西脇裕美は詩人の北川透に、「文学をやるうえで一番重要なことは何ですか?」と質問するのだが、それに対して、北川透はこう答える。…
映画芸術の上映会「映芸マンスリー」で、渡辺護の『喪服の未亡人 ほしいの…』が上映されます(トークショーもあります)。 映芸マンスリー 11月26日(水)19:00〜 上映作品:『喪服の未亡人 ほしいの…』(DVD上映) トークショー:渡辺護(監督)、井川耕…
(福間健二『岡山の娘』はポレポレ東中野で現在公開中です) 「つまり、母さんとあなたは、わたしをつくって殺そうとしたんだ――と、わたしは言えなかった」というみづきのナレーションのあと、映画は夕陽を映し、ゆっくりフェイドアウトする。 そして、字幕…
けれども、「これがわたしの人生です」と自信をもって物語ることなどできるものだろうか? そういえば、気になるシーンが映画のはじめの方にある。みづきを含む五人の女性たちに向かって、「なぜ岡山にいるのですか?」と尋ねるシーンがそれだ。 このシーン…
(福間健二『岡山の娘』はポレポレ東中野で現在公開中です) 映画が始まって七、八分たったくらいだろうか、友人の智子を後ろに乗せて自転車を走らせていたみづきは、ふいに自転車を乗り捨てると、ベンチに腰かけて呟く。「わたし、まだめんどくさい。ごめん…
伊藤大輔が撮ったトーキー版『丹下左膳』。 45分ぶんの断片しか残っていないということだったけれども、 見てみると、出だしはかなり残っているようでした。 沢村国太郎演じる柳生源三郎が、司馬道場の娘との縁談がまとまり、江戸へ向かうところから映画は始…
(以下の文章は「プロジェクトINAZUMA」BBSに書いたものの再録です) 人入れ稼業の井筒屋の人足・権三(大川橋蔵)は、浪人の娘・千鶴(江利チエミ)と相思相愛の関係。 けれども、身分が違うから、一緒になることはできない。 ああ、生まれ変わってくる時に…
(以下の文章は「プロジェクトINAZUMA」BBSに書いたものの再録です) 渡辺護監督の伊藤大輔に関するインタビューをブログに載せたついでに、 今、フィルムセンターで上映している伊藤大輔作品についての感想をちょっとだけ書いてみようかな、と。 伊藤大輔は…
前に書いた感想だと、 『ナショナルアンセム』の見どころはまち子だけみたいに見えてしまうけれど、 そんなことはない。 たとえば、まち子が風呂に入っている場面。 この場面には、まち子の姉の幻が出てくるのだけれど、 その幻は浴槽の縁に立っていて、 ゆ…
『ナショナルアンセム』には50人近い人が出演しているという。 とにかく、新たな登場人物が次々と出てきて、顔がおぼえきれない。 今、画面に映っているこの人は、前のあのシーンに出ていた人と同じ人なのかな? なんて考えながら見てしまうから、 あらすじ…
『アカイヒト』は、遠い昔、アジアのどこかの小国で、伝説を題材にして作られた映画みたいですね。 日本語字幕のついたフィルム断片が、最近、田舎の土蔵の中から発見され、 フィルムセンターが復元しました、 と言ってもおかしくないような感じです。 とこ…
(以下の文章は、『映画芸術』第402号からの再録です) 「2002年度日本映画ベストテン&ワーストテン選評」(井川耕一郎) (1)『YESMAN / NOMAN / MORE YESMAN』(松村浩行) (2)『犬情』(粟津慶子) (3)『人コロシの穴』(池田千尋) (4)『カ…
渡辺護監督の新作『喪服の未亡人 ほしいの…』が、関西で上映されるとのことです。 7月12日(土)〜18日(金):テアトルA&P、タナベ国際 7月26日(土)〜:福原国際東映 上映館などに関する詳しい情報は以下のサイトを御覧下さい。 PG−Web−Site http://…
(以下の文章は、『映画芸術』第422号からの再録です) 「2007年日本映画ベストテン&ワーストテン選評」(井川耕一郎) 西尾孔志『おちょんちゃんの愛と冒険と革命』10点 松村浩行『TOCHKA』(トーチカ)10点 昨年はずっと前から見たかった映画を見るこ…